第一物語・後半-日来独立編-
第六十二章 覚醒せし宿り主《2》
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支配される、家族を殺めてしまった時と同じ状況。
いけない。
このまま刀を握り続けてしまうと、身体を支配されてしまう。それでは昔と同じだ。
違う筈だ。抗いの意思を奏鳴は忘れなかった。
まだ強くは無い。しかし、弱いままでも無い筈なのだ。
ちょっとだけでも強くなれた気がしていた。
少し、昔とは違っているような。
「私は……私は……!」
思考は抗う。身体を支配しようとする力に。
ただ甲板に刺さった刀を抜くだけの、簡単な動作だ。なのに今、奏鳴は額に汗を浮かばせ、力の込もった声を吐いている。
過去の自分と決別する思いを胸に、柄を握る。
負けない。負けるわけにはいかない。
自身の弱さゆえに散った家族のためにも。
迷惑を掛けてしまった皆のためにも。
一番は彼のため。
長い間想い続け、傷付き、されど来てくれたセーランが見ているこの場では。
「負けるわけには、いかないのだ――――!」
青い閃光が放たれる。
流魔光による光だ。
その一振りは風を生み、穢れを洗い流すかのように吹く。走る一閃は迷いを断ち、過去と今との境界線をつくる。
流れた一瞬の時は迷いを払い、信念を貫く強い意志を目覚めさせた。
ある日止まっていたものが、今この時再び動き始めた。
『己の試練、こうも容易く越えた者は久し振りだ。過去を越え、今を受け入れる強い思い。気に入ったぞ……委伊達・奏鳴。いいだろう、貴様を正式な宿り主として認め、己が力を貸そうぞ』
姿の見えない竜神は何処か笑うような口振りで、刀を振り抜いた奏鳴に告げる。
奏鳴が握る刀。
甲板から引き離され、同時に離す際の衝撃のみで華空の船首がぱっくりと切り落とされた。
鉄の塊と化した船首が地面に落ち、重量を感じさせる大音を放つ。しかし周囲の者、それ以外の者も落ちた船首ではなく。甲板上に立つ宇天の長、奏鳴を見た。
刀を握り、詠む。
「崩壊世界より来たれり一つ目の竜。命変え、この創生の世に廻り来よ」
その刀の名を叫んだ。
奏鳴と竜神は呼応するかのように、重なり合った声が響いた。
「神具――竜神刀・政宗!」
『神具――竜神刀・政宗!』
独眼竜を名乗りし、遠い過去の魂が刀となってこの世に姿を現した。
懐かしき者の名を幾年振りに口にした竜神。
遠く記憶が蘇る。
皆は見た。
誰もが目を再び見開き、驚きの連続でものが言えない。
唖然でも呆然でもない。
単純に何も言おうとしなかった。
衝撃的過ぎて、天魔さえも震えだす。
セーランさえも同じく、奏鳴の後ろからそれを見た。
奏鳴の背後に、長いその身体を曲げ。
――竜神が現れたのを。
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