第三章
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第三章
「今から」
「そうね。それじゃあ」
こうして二人で踊りはじめた。彼女のダンスも見事だった。けれど。
おいらはここで気付くべきだった。本当に迂闊だった。その見事なダンスを見てだ。
動きが何かが違う。女の子のそれじゃなかった。あえて言うとそれは、いやはっきり言うとだ。男の動きだった。今にして思えば。
ステップは軽やかに、じゃなくて威勢よく。そして舞う動作はモハメド=アリだった。まさに蝶の様に舞い、だった。何かが違っていた。
そんなダンスで気付くべきだった。よく見ていればわかることだった。けれどそれに気付かないおいらはそのまま踊って。そのうえで声をかけた。
「パーティーの後はさ」
「何?」
「ドライブしないか?」
こう言ってやった。
「二人だけでな」
「あら、それはまた露骨なお誘いね」
「嫌ならいいぜ」
あえて突き放して言ってやった。これも駆け引きってやつだ。
「それならそれでな」
「けれど断ることは許さないでしょ」
「断ったら何もかもなくなるぜ」
笑って言ってやった。
「魔法が解けて何もかもな」
「ふふふ、魔法が解けるのはね」
「何だってんだい?」
「十二時になってからね」
話はシンデレラになった。ここでこれはなかった。とびきりの魔法だ。けれど今にして思うと確かに目の前のレディーはシンデレラだった。
そのシンデレラの十二時という言葉に。あえて乗ってやった。
「それじゃあな」
「ドライブね」
「行こうぜ」
今度ははっきりと誘ってやった。
「パーティーの後でな」
「ええ、いいわよ」
そんなやり取りの後で二人で夜の街をドライブに出た。それ自体はよかった。
けれど誰もいない、周りは荒野だけのそんなアメリカにはよくある道を走っていると車が急に止まった。メーターを見たらガス欠だった。
「おいおい、そりゃないぜ」
「ガソリンがないの」
「まずったな、こりゃ」
この事態にまずは苦笑いになった。左の座席で思わず唸る。
彼女は助手席だ。二人並んでの最高のドライブが急に終わった。けれど彼女は何ともないといった顔でおいらに言ってきた。
「それならね」
「それなら?」
「休まない?」
おいらの顔を見てくすりと言ってきてくれた。
「一晩中ね」
「お誘いってわけかい?」
「そう思ってもいいわ」
実際に思わせぶりな笑みだった。
「それじゃあ。どうするの?」
「話には乗る主義なんだよ」
おいらは気取ってこう返してやった。
「上手い話には何でもな」
「それがトラップだったら?」
「その時は運と度胸で乗り切るわ」
そうなった時の危険を乗り越えてかわすのもゲームってやつだ。ロックンローラーとしてのおいらのポリシーの一つになっている考えだった。
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