高みに上らせるは鳳と月詠
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にか振り払う。
少し月と雛里に相談してみよう。三人で打開策を話し合ってみよう。
「――――という訳なのよ」
未だ片付けを行っていた二人を休憩の名目で食堂に呼び出して説明すると、どちらも愕然とした表情に変わった。
「元気になったように見えたのは……無理してたんだね」
月の言葉にも、雛里はただ宙を見つめるだけで反応しなかった。
支えるとはよく言ったモノだ。結局ボク達はあいつに対して何も出来ていないのだから。
平原での安息の日々に幾分か隈は薄くはなった。しかし一月経っても完全には消えない。
そのうち消えるだろうと安直に考え、何も知ろうとしなかったのだ。
忙殺されていた、というのは言い訳にしかならない。時間というモノは有限であるが、自分で作り出す事も出来るのだから。
「……私は……あの人に何もしてあげられないのかな……」
ポツリと、雛里が感情の抜け落ちた声を空間に投げ入れた。
そんな彼女の悲痛な心を読み取ってしまい、胸がズキリと大きく痛んだ。見ると月も同じようで、悲しみを表情全てに映し出していた。
空白を許さず、あのバカの為に思考を開始する。
人を支えるにはどうすればいい。
壊れてしまいそうな者を助けるにはどうすればいい。
自身のこれまで生きてきた記憶と経験を引きずり出してただ考える。
潜る事幾分、そこで、一つの解を得た。彼女に確認をしてみよう。
「雛里、あいつは……秋斗は泣いた事ある? ううん、人前で感情をさらけ出して泣いた所を見た事ある?」
「……あります。一度だけ、初めて人を殺してしまった賊討伐の帰り道で」
「それを傍で受け止めたのは……雛里なのね?」
コクリと、小さく頷いて肯定した雛里は、知性の光を瞳に宿して思考に潜ったのが分かった。
「でも詠ちゃん。秋斗さんは人前じゃ泣かないんじゃないかな」
反論を唱える月の言葉は正しい。確かにあいつは泣くことをしないだろう。
でも違う。これはただの確認。
人に対して一度でも弱い部分をさらけ出したかどうかを聞きたかった。
その状況がどんなモノで、あのバカがどんな人間かを把握したかったから。
「そうね、あいつはそういう奴よ。心を無理やりこじ開ける事なんか出来ない捻くれ者。だから……引き出すんじゃなくて、こっちから押し付けてやればいいのよ。言葉で足りないなら態度で、ね」
「でもどうやって……?」
雛里は考えても答えが出なかったのか不思議そうに尋ねて来た。
「簡単よ。追い詰めて、逃げられなくして、安心させられる人が傍にいる事を無理やり教えてやるの。ここに帰って来て少し安定したのは子供達と触れ合ったから、守るモノを、安息のある場所を確認したからでしょう?」
まだ分からないようなのでにやりと笑って、
「ふふ、いい?
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