序章 手を取り合って
第3話 闇の書より愛をこめて
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しかし、クライドを殺した自分が、英雄として賞賛されることに、彼は苦悩し続けた。
闇の書事件の解決で結果的にクライドの仇をうった自身を自嘲した。
――彼は、どこまでも実直で、真面目すぎたのだ。
グレアムは、自責の念を増していき、めっきりと老けこみ、やがて隠棲してしまった。
彼は、実の娘のように可愛がっている「三人」の家族たちと、ひっそりと暮らすことを選んだ。
しかし、歴史は、彼の平穏を許さなかった。
管理局を引退したのちも、彼は大きな事件に関わり続けた。
最愛の娘たちとともに。
娘であり。孫であり。後輩となった娘。
彼女は、尊敬する養父に憧れ管理局員になり――――史上最年少の提督になった。
当時の彼は、喜びと悲しみがないまぜになった複雑な心境だったのだろう。
それでも、強く美しく成長した愛娘を全面的にバックアップした。
忌み嫌っていたはずの「英雄」とう称号すら利用して。
その辺の事情で、自ら手にかけた部下の息子と、ひと悶着あったものの。
全力で娘を支援した。
――――彼は、親ばかとしても有名だった。
時を経て、英雄として次元世界の歴史に名を残したギル・グレアム提督。
彼の心中と、晩年を知る者は死に絶え、名声だけが残った。
ありえた歴史――本来の物語――とは異なる最期を迎えた「英雄」ギル・グレアム。
悲願だった闇の書事件を解決した結末は皮肉なものだった。
史実では、救済される筈だった彼は、事件解決の代償として、自らの手で道を閉ざした。
けれども、史実では、ありえない出会いにより娘を得た彼の死に顔は、穏やかだったという。
―――だがそれでも。望まぬ賞賛は、生涯彼を苦しめ続けるのだった。
『英雄は異なる運命を強制され
英雄に虚構の奇跡を強制する
英雄は望まぬ賞賛を強制され
英雄に虚像の真実を強制する
英雄は仮定の未来を強制され
英雄に孤独な懺悔を強制する』
(とある女性提督の手記――造られた英雄の詩)
ここで語られた話は、あったかもしれないIFの話。終わってしまった物語。
◆
「闇の書」は、アルカンシェルを浴び、消滅しようとしていた。
が、すぐに無限転生機能が発動した―――――瞬間に、異質な力の干渉を受け、エラーが発生した。
イレギュラーの発生で、第97管理外世界「地球」の所有者に転移するはずの闇の書。
この悪名高いロストロギアは、次元世界の壁ではなく、三千世界の壁を乗り越えた。
不可能な筈の「異世界」への旅路の中で、何者かに導かれるように、運命に流されるように、「異世界の地球」に転移した。
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