焦がれる夏
弐拾伍 伏兵
[4/4]
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
れたかのように球のキレを増す真司に、7回の武蔵野打線は三者凡退に抑えられ、8回も先頭の川口が三振に討ち取られた。
打席には4番・捕手の梅本。
(高校生活、最後になるのかな……)
梅本は悟ったように穏やかな顔をしていた。
この打席は、スタンスを少し狭めた。
真司の投球と同時に、足をグッと引き上げ、一本足でタイミングをとり、力一杯踏み込んで、大空に向かってバットを振った。
カァーーン!
角度良く上がったフライはしかし、走者なしの場面により、深く守っていたレフト日向の正面。
難なく捕球され、二死となる。
「上げるな、上げるな!」
「転がせ!フライいらねぇぞ!」
ベンチから同僚の叱責が飛ぶが、アウトになって帰ってきた梅本は笑っていた。フルスイングしても、俺の飛距離はあそこまでか。その自嘲の笑いだった。
フライを上げる打者に対して、口を酸っぱくしてゴロを叩く事を教えてきた時田も、その梅本の笑顔を見ると、何も言えなかった。
(弱者の戦法、か。こんな格好悪いモノに誇りを持つのは難しいよな。高校生はまだ、可能性があるからな。ウチの選手にだって、ホームランを打つ可能性はあるんだ。)
時田は自軍ベンチの、声を枯らして打者に声援を送る選手たちを見た。
(でもその可能性を捨てる事、諦める事、それは決して格好悪い事じゃない。できる事をやる、それに集中する、可能性を捨てる事によって見えてくる生き方だってあるんだ。そしてそれは、一つの可能性に見切りをつけないと見えてこなかったりするんだよ。)
6番の大多和がセカンドゴロで、一塁にヘッドスライディングする。余裕のアウトのタイミングでも力一杯走り、頭から滑り込んだ。
(……お前たちも、いつか分かる時が来ると思う)
時田は自分の教えを愚直に守ってきた教え子を包み込むような眼差しで見る。
監督として、そして"先輩"としての眼差しだった。
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ