暁 〜小説投稿サイト〜
誰が為に球は飛ぶ
焦がれる夏
弐拾伍 伏兵
[3/4]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
ウントができる。

(これ絶対、インコース真っ直ぐ投げる布石だよなあ。でも、分かっていてもこのままじゃ打てないよなぁ。)

健介はネクストの日向を見た。
そして心の中で呼びかける。

(日向さん、円陣で"上から叩け"って言いましたよね。すんません、言いつけ破ります)

健介はそして腹を決めた。

小暮がセットポジションに入る。
2塁走者に一瞥をくれてから、足をグッと引き上げる。そこから本塁方向へと勢いよくステップアウトしてくる。健介はそれと同時に、軸足を背後にずらした。

小暮は健介の予測通り、インコースギリギリへと思い切り良く真っ直ぐを投げ込んできた。
健介は軸足をずらした分、立ち位置がホームベースから離れる。インコースギリギリの球が、健介にとっては真ん中内寄りの真っ直ぐに見えた。

いつもはコンパクトに叩く所を、体重を軸足に乗せたままで、思い切り背筋をしならせ、自分の背中を叩くような軌道で振り上げた。

カァーーン!!!

アッパースイングで引っ張り込んだライナーが、レフトに飛んでいった。浅めに守っていたレフトの頭上を遥かに超え、フェンスにワンバウンドで当たる。

2塁ランナーの真司が悠々とホームへと帰ってくる。一塁ランナーの青葉が快足を飛ばし、グングンと加速しながら三塁を蹴る。外野から内野へとボールが戻ってきた時には、既にホームベースを駆け抜けていた。

(アウトコースに投げられてりゃ、無条件で三振だったけど……)

健介は学園歌に沸く自軍スタンドに、拳を突き上げる。

(俺、賭けに勝ったんだ!!)

満面の笑みの健介に、スタンドからこれ以上ないほどの歓声が浴びせられていた。2塁ベース上から、この風景を忘れまいと、眼鏡の奥の目を凝らした。
3-1。7回、ついにネルフ学園が逆転に成功した。


ーーーーーーーーーーーーーー


カァーーーーーン!!


甲高い金属音が、県営球場に響き渡った。
マウンド上の小暮はもう打球の方向を振り返らなかった。

鋭いライナーがグングンと右中間に伸びて、そのままフェンスの向こうの芝生に勢いよく弾んだ。ネルフ応援席がお祭り騒ぎとなり、それとは対照に至ってクールに剣崎がダイヤモンドを悠然と一周する。

8回の表、先頭の剣崎が投球を完璧に捉え、今大会二本目の本塁打を叩き込んだ。梅本は目の前から一瞬でボールが消え失せたような感覚に半ば諦めたような笑みを浮かべ、小暮は表情こそ変わらないがその肩をがっくりと落とした。


4-1と、3点差に広がった点差に時田は表情を険しくし、ベンチの最前列から退いて、深く腰かけて天を仰いだ。


ーーーーーーーーーーーーーー


「ストライクアウトォ!」

逆転に成功して以降、気持ちが晴
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ