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八条学園怪異譚
第五十話 秋に咲く桜その十七
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莉也はここでこの言葉を出した。
「こうしたのもいいでしょ」
「ですね、今まで見てきたものの中で」
「一番綺麗ですね」
「この世に有り得ないものを見ることが出来るのはね」
 それはだ、どうかというのだ。
「最高の幸せの一つだと思うけれどね」
「幻想、ですね」
「本当に今見ているのは」
「そう、幻想よ」
 まさにそれだとだ、二人に言ってだった。
 茉莉也は実に美味しそうに饅頭を食べる、そのうえで満面の笑顔で二人にその饅頭を勧めるのだった。
「お菓子も食べてね」
「そのお饅頭美味しそうですね」
「それ何処のお店のですか?」
「山月堂よ」
 八条町の老舗の和菓子屋であるそこのものだというのだ。
「あのお店のよ」
「ああ、あそこですか」
「あのお店の」
「まああそこ以外にもね」 
 見れば饅頭の数は多い、その種類も。その全てが山月堂のものではないというのだ。
「伊豆屋とか秋田堂のもあるわよ」
「そうですか、そうしたお店のもですか」
「買って来たんですか」
「狐さんと狸さん達がね」
 買って来たのは彼等だというのだ。
「お饅頭に五月蝿いからね」
「そうですね、狐さんとか狸さんってお菓子が好きですね」
「特にお饅頭が」
「化かす時にも使うでしょ」
「はい、有名なのですね」
「あれですね」
 二人は食べながら苦笑いになった、狐狸はよく馬糞や泥玉を饅頭として出して食べさせるからだ。
「これは違いますよね」
「流石に」
「違うわ、普通のお饅頭だから」
 だから安心していいというのだ。
「だから安心して食べてね」
「はい、わかりました」
「じゃあ有り難く」
 二人も茉莉也の言葉に頷いて食べていく、その上で音楽と舞、それに幻想的な夜桜を観て楽しむのだった。秋の夜長を。


第五十話   完


                            2013・9・13
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