第四章
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のです」
「喜び」
「はい。貴方も感じませんでしたか?」
「何をだ」
「あの人達の喜び。そして心を」
「心」
「はい」
女は答えた。
「きっと感じている筈です」
「・・・・・・・・・」
俺は考えた。いや、正式に言うと思い出したと言うべきか。
ガキの頃神父さんに握ってもらった手を。ガサガサでどうしようもなく荒れた手だったがあったかかった。それはシスター達も同じだった。何よりも温かい手だったのを覚えている。
「思い出されましたか」
「まあな」
「それが答えです。その方達にとってそれが最も価値のあるものなんです」
「俺もか」
「はい」
女はまたそう答えた。
「その方達にとって貴方も貴重な、かけがえのない存在である筈です」
「まさか」
否定した。当然だった。俺がそんな価値のある奴な筈がない。親にも捨てられた俺が。思わず怒鳴りたくなった。
「馬鹿を言っちゃいけねえぜ」
「私はそうは思いません」
だが女はここでまた言った。
「よろしければその神父さん達に御聞きになればいいでしょう」
「そこまでしなくても」
わかる、そう言うつもりだった。だが先手、それもより上をとられてしまった。
「わかっておられますね」
「・・・・・・ああ」
俺はそう答えざるを得なかった。そして頷いた。本当はわかっている筈だった。あの手の暖かさを思い出したその時で。もう否定できなかった。
「そういうことです。これでいいでしょう」
「まあな」
口惜しい筈だった。今までは。だがそうじゃなかった。不思議と言えば不思議だった。
「だがな」
それでも引っ掛かるものがあるのは事実だ。
「まだ完全にわかったわけでもないぜ」
「それは承知しています」
「そうなのか」
「はい。ゆっくりと考えて下さい。時間はかなりある筈です」
「わかった。それじゃあな」
俺はその場を後にすることにした。そして暫くまた考え込んだ。
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