暁 〜小説投稿サイト〜
誰が為に球は飛ぶ
焦がれる夏
弐拾四 揺さぶり
[5/5]

[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話
応援席が、揺れる。

「「それゆけチャンスだ ここで一発
レフトスタンドにホームラン!
(シ ン ジー!)シ ン ジー!
ホームランホームラン
かっとばせーーシンジ!」」


ーーーーーーーーーーーーー


(追い込まれたら気迫で負ける!初球からいく!)

応援に後押しされた真司は腹を決めた。
何でもいいから、初球から叩く。
打撃は投球ほど得意ではないが、だからといって消極的になってなんかいられない。

小暮が初球を投げ込む。
真司はその初球に食らいついた。
食らいついた真司をあざ笑うかのように、その球は外にスッと流れていった。

(スライダー!?)

真司は腰が砕けたスイングになった。
が、何とかバットの先っぽで球を拾う。


ガッ!


鈍い音を立てた打球は、小フライとなってショートの頭上にフラフラと上がった。


(落ちる!)
薫は猛然とスタートを切る。

(捕れる!ゲッツーだ!)
打球と、スタートを切ったランナーを振り返り、小暮は確信した。


ショートの中林が半身の姿勢で後退する。
その爪先が、芝生と土の切れ目の部分に引っかかった。
体勢を崩しながら、グラブを頭上に白球へと伸ばす。そのグラブの先をかすめ、白球は芝生に弾んだ。


大歓声と、そして大きなため息が球場を満たした。スタートを早めに切っていた薫は悠々ホームへ帰ってくる。

1-1。ついにネルフ、同点に追いついた。


「「抱き締めた命の形
その夢に目覚めた時
誰よりも光を放つ
少年よ神話になれ!」」


学園歌に揺れる真紅のスタンドに、真司は右手を突き上げた。それに呼応して、万歳三唱が起こる。

(薫君が作った勢いのおかげだ。こうなったら、どんな打ち方したって上手くいくもんな)

ベンチの中でもみくちゃにされ、やや困った顔を見せている薫を真司は見た。

(ありがとう)

その視線に気づいた薫が、真司にフッと微笑んだ。





「切り替えろよ。」

マウンド上で短く言われた小暮は、黙って梅本に頷いた。噛み付いてくるような顔はちっとも変わっていない。梅本はその顔を見て、まだ大丈夫だと安心する。

(まだまだ、これからだ)

同点になったスコアボードを振り返り、小暮は大きく深呼吸した。







[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ