暁 〜小説投稿サイト〜
誰が為に球は飛ぶ
焦がれる夏
弐拾四 揺さぶり
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ーフティバント。

キン!

まるでソフトボールのスラップのようなタイミングでバットを出し、一塁へ走りながらバットに当てた。少し強めの打球だが、三塁側に転がる。

サードの大多和が前進してゴロをすくい上げ、一塁へワンステップ踏んで投げた。
薫は頭から滑り込む。


「セーーーフ!」

審判の手は横に広がる。
薫がユニフォームの裾で、真っ白な顔に付いた土を拭いながら立ち上がった。
薫のバントヒットで、3イニング続けての先頭打者出塁となる。

「薫がヘッドスライディング……」
「初めて見た……」

武蔵野サイドだけでなく、ネルフベンチもびっくりのセーフティバント。
薫は涼しい顔で微笑んでいた。

(少し打球は強かったけど、送球の強さを見る限りランニングスローはしなかったようだね。リスキーな打球処理を避けたんだ。)

日向のサインを見て、薫はリードをとる。
いつもより一歩分、その幅を広げた。
広めのリードを見て、小暮が執拗に牽制球を投げる。薫は頭から一塁に戻り、しかしそのリードの幅を狭める気はない。

(相手が受け身になってる分、こちらは強気に、思い切って!)

やっと小暮が打者に向かって投げる。
小暮の球の軌道はストライクゾーンの高さ。
薫はスタートを切った。

キン!

7番の多摩がバントする。
打球はやや強めだが、ゴロを拾った小暮は2塁を諦め、一塁に送った。

一死二塁。またチャンスができあがる。

(ずっとこのパターン…バントで塁を進めてくる正攻法だが、今度はランナーが早めにスタートを切ってきた。次のバッターが例え8番打者でも、絶対に二塁へランナーを進めるという執念だ。この回は何かが違う)

二塁へと進んだ薫を睨み、梅本はネルフ打線の雰囲気の変化を察知した。
初球からのセーフティバントといい、今のリスキーなスタートといい、薫の流れを変えようという意図が伝わってくる。

(しかし、打順は8番、9番だ。一つずつアウトをとればこの回もしのげる。)


ーーーーーーーーーーーーー


<8番ピッチャー碇君>


ネルフの応援席にも、アナウンスが聞こえる。
また迎えた同点のチャンス、今度こそ、今度こそ……その期待をひたすらに声援に乗せる。

「シンちゃんー!自分助けろー!」
「わんこ先輩ー!打つしかないよー!」

美里が、真理が声を張り上げる。

(碇君……みんなの気持ち、受け取って)

玲が大きく息を吸い込み、トランペットの音色に思いを乗せる。

パッパッパパーパ
パッパッパパーパ
パッパッパパーパラッ?
「「「かっとばせーシンジ!!」」」

軽快なチャンステーマ「5,6,7,8」が三度、県営球場に響き渡る。真紅に染まった
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