第六十五話 犠牲にするものその六
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「俺しかいない」
「そうなるわよね」
「サラリーマンの家だがな、ごく普通のな」
「それでもなのね」
「親父もお袋も家の意識が強い」
広瀬も古い考えとは思う、だがそれでも残っているのだ。
それ故にだ、彼は今言うのだ。
「それで俺が由乃と一緒になると言ってもな」
「無理よね」
「絶対にな」
話は堂々巡りだった、そのことも意識して。
広瀬は苦しい顔にもなった、そのうえでこうも言った。
「何とかしたい、だからだ」
「だから?」
「少しの間だけ待っていてくれ」
剣士としての戦いのことを隠しての言葉である。
「何とかしてみせる」
「期待していいのね」
「ああ、俺が絶対に何とかする」
だからだというのだ。
「待っていてくれ」
「わかったわ、それじゃあね」
由乃も確かな顔で頷いた、そうしてだった。
広瀬の言葉を信じることにした、それで確かな顔になって言葉を返した。72
「待っているわね」
「そうしていてくれ、絶対に解決する」
それもいい方向にだと言ってだった、そうして。
この場ではこれで終わった、だが広瀬はこの状況を生き残ることで解決しようと考えていることは変わらなかった。
聡美は今度は高代の前に現れた、二人は高等部の喫茶店で話をした。
白い店の中で二人で話す、その中でコーヒーを飲んでいた。
高代はそのウィンナーコーヒーを飲みつつこう聡美に言った。
「申し訳ありませんが」
「やはりそうですか」
「夢は誰でも適えたいと思いますね」
「はい」
「私も同じです」
だからだというのだ。
「このことについてはです」
「どうしてもなのですね」
「戦いは嫌いです」
このことははっきりと言う高代だった。
「ましてやエゴの為に戦う戦いは」
「そこまでわかっておられてですか」
「それでもです」
だがそれでもだというのだ。
「私は願いを適えたいのです」
「だから戦われますか」
「いつも思います」
遠い目になってだ、彼は聡美に話した。
「お金と土地、そして人がいれば」
「それで、ですね」
「私の願いが戦いを経ずに適えられれば」
それでだというのだ。
「夢にも見ますよ」
「では願いが適えば」
「戦わずに済めば」
それでだというのだ。
「私はそれでいいです」
「しかしそれがならないからですね」
「私は戦うことを選んでいます」
今度は苦い顔になった、遠いものを見る目から。
「何としてもです」
「戦われますか」
「そう決めています」
そしてその決意は変わらないというのだ、高代はここまで話した。
しかしそこまで聞いてだ、聡美は高代のその目を見て言ったのである。
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