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久遠の神話
第六十五話 犠牲にするものその三
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「由乃って呼んでね」
「由乃さんですか」
「そう、そう呼んでね」
「わかりました、では由乃さん」
「ええ、それじゃあだけれど」
「はい」
「ここにどうして来たの?」
 聡美に来訪の理由を問う。
「それはどうしてなのかしら」
「実は広瀬さんにお話したいことがありまして」
「話したいこと?」
「そうです。ここに願いがあるのですね」
 今度は広瀬を見て言う聡美だった。
「そうですね」
「だとしたらどうする」
 広瀬は鋭い目になり聡美に返した。
「この牧場にそれがあるとすれば」
「はい、貴方は由乃さんと交際されていますね」
「この娘が言った通りだ」
 否定しなかった、その通りだというのだ。
「俺達は付き合っている」
「そうですね」
「そしてだ」
 さらに言う広瀬だった。
「君が思っている様にだ」
「では」
「将来は彼女と一緒になりだ」
 由乃を見る、そして言うことは。
「この牧場を二人でやっていきたいと思っている」
「それではです」
「それでは。何だ」
「貴方はここにおられて下さい」
「牧場にか」
「お二人でお話をされて」
 広瀬と由乃、二人でだというのだ。
「そのうえで、です」
「今度は何だ」
「由乃さんのご両親はこのことは」
「結婚したいてって話はまだしてないわよ」
 それはだとだ、由乃もこう答える。
「まだね」
「そうですか」
「しようって思ってるけれどね」
「そこにはまだ至っていない」
 そうだとだ、広瀬は幾分かバツの悪い感じの顔になってそのうえで由乃を横目で見ながら聡美に話した。
「至りたいがな」
「私は恋愛には疎いですが」
 かつてのオリオンとのことを思い出しながら、聡美はここでは目を伏せた。
 しかしその目をすぐに戻してこう広瀬達に言ったのである。
「ですがそれでもです」
「言うべきか」
「それでことが成就するのなら」 
 広瀬の願い、それがだというのだ。
「いいと思いますが」
「そうよね、けれどね」
 由乃が困った感じの苦笑いになって聡美の今の言葉に答える。
「そう簡単にはいかないのよね」
「勇気がいる」
 広瀬も言う。
「しかも俺は長男だ」
「そういえば日本では」
「長男が家を継ぐな」
「それはギリシアでもおおむね同じです」 
 長子相続の原則があるというのだ、ギリシアでも。
「だからですか」
「俺の家は普通のサラリーマンの家だがな」
「長男であられるからですか」
「家を継がなくてはならないかも知れない」
「そうですか」
「だからだ」
 広瀬は聡美の目を見た、そこに彼の言葉を多く含ませて伝えた。
 そのうえでだ、こう言ったのである。
「わかるな」
「はい、そうなのですね」
「俺は絶対に一緒になりたい」

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