夕焼けは朱を深く刻む
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、落ち着いた声で出迎えた。
白磁の肌は透き通り、血色が良くないのは誰の目にも明らかであったが、それでも愛する娘の為に精一杯元気な素振りを振る舞う彼女は、まさしく母であった。
そんな母の本心が分からないでいられる程、夕の頭の出来は悪くは無い。
だからこそそこには触れず、ただ寝台の傍の椅子に座り、冷え切った手を温めてあげられるようにと両の手で包み込んだ。
「お母さんに大事な報告がある」
夕の発言に微笑みながら少し首を傾げ、なぁに? というように無言でおしとやかに問いかけた。
「多分、私は恋をしているらしい」
「まあ、それは素晴らしい事ね。難しい事ばかり考えている夕だから色恋とは無縁かもと心配していたけれど、安心したわ。それで、どんな人なの?」
上品に口に手を当てて少し笑い声を漏らして驚き、愛する娘の成長に安堵を感じた母は興味津々と言った様子で夕に尋ねた。
「優しくて、弱くて、強い人……だと思う。それと、明に少し似てる」
どこでも頭を撫でる所とか、とは言わないでおいた。
夕は洛陽で秋斗と話してから、そんな事を感じていた。飄々とした所も、二面性を持っている所も、優しい所も……どこか壊れている所も。
「そう、あの子と似てるって事はあなたとの相性もいいのでしょうね。きっとお似合いだと思うわ」
母の言葉は夕の頬を紅く染め上げた。無防備な状態に不意打ちを仕掛けられ、恥ずかしさからか夕は少し俯く。
「あら、照れたのかしら? ふふ、いいわねぇ、若いって。私も昔なら――――」
懐かしむように過去の出来事を話す彼女も、一人の少女の時があったのだと分かる。
そんな母の様子を見て、話に頷きながらも夕の心は沈んで行った。
母、とは呼んでいるが、実の所彼女の本当の母親ではないのだ。たまたま、暴漢から逃げていた孤児の夕を拾ったのがその人。
体調が崩れる前、袁家の筆頭軍師であったのは沮授、夕が母と呼ぶ人物である。
彼女は優しく、親を失った孤児を何人か育てており、最終的に袁家に残ったのはただ一人、夕のみ。
どの子達も沮授には感謝していたが、強く、自分の為に生きろと言われ、夕以外は別の地に離れて行ったのだ。
そして年々増していく過度な重圧から、そして袁家の腐敗したやり口による気疲れから、沮授は体調を崩してしまった。
それと共に特殊な病が併発し、誰にも治す事が出来ず、延命するのが精いっぱいであり、黄巾が始まる頃には歩けぬ程に衰えてしまった。
本来ならば、そこまで早く進行する病では無いのだが、策略があった。
沮授の才に嫉妬した郭図が延命の薬を調合できる医者を誑かして薬を簡単に手に入れられないように、さらには袁家の人質とする事で夕の行動を縛り付けるために。
ただ、後々その事実を知った明によって郭図は一度暗殺されかけて
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