夕焼けは朱を深く刻む
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思い描いていたようだが、その頬には朱が差していた。
瞳に甘い色が浮かび、思い悩むように眉を寄せ、それはまさしく恋をする乙女の表情。
「夕、秋兄に恋したね?」
「……恋? 分からない。これがそうなの?」
ぽーっとした表情と、少し呆けた口調で語られ、明は厳しい表情になった。
「うん、多分ね。秋兄の事考えると……どんな感じ?」
「……少し、胸が暖かい」
「じゃあ、秋兄にどうして欲しい?」
「……私の傍に居て欲しい。頭を撫でて欲しい。見て欲しい。どうして私の策を、読みを越えられたのか教えて欲しい。それに明や私と同類なら、全てを理解して貰えるはず」
愕然。並ぶ者のいなかった彼女の智を容易く乗り越えたから、そしてかつて同類であったが故の安心感があったからこそ恋とは無縁だった夕が恋に落ちてしまった。
自分が追い詰められているにも関わらず、追い詰めた相手を求めてしまっていた。仮に、曹操が彼女を追い詰めていたのならばこうはならなかっただろう。
「ならどうする? 公孫賛の所を攻めたら、あたしたちには絶対に力を貸してくれないよ?」
明によって非情な事実を突きつけられた夕は、肩を落とし、力無く俯いてしまったが、小さな声で言葉を紡ぐ。
「……分かってる。それにあの人は自分の為が第一だから助けに来てはくれない。それなら……手に入れる。お母さんも、桂花も、本初も、秋兄も、全部纏めて、私と明の傍に置く」
本当は助けに来てほしい。夕はその想いを……呑み込んだ。
彼女は軍師。待つだけでは軍師とは言えない。だからこそ自分から手に入れる為に動くという事。
そんな想いを間違えず聞いた明は微笑んで、
「ならあたしは今まで通りにあなたの為に動くよ。夕の幸せだけがあたしの望みだからねー」
夕に、自身の本心をいつものように語る。
明はどこまでいっても、何があっても夕の為にしか行動しない。夕が変わろうともそれだけは絶対に変わらない。夕の為に――――それが自分の為だから。
「ありがとう。じゃあ、今度の侵攻で本初と協力して公孫賛、関靖、趙雲の三人を必ず捉えて欲しい。上層部を納得させる理屈は本初に伝えておくから」
「了解、任せてよ。じゃああたしは仕事に戻るね。今日は面会でしょ? 楽しんできてね」
「ん、いつもありがと、明」
「お互い様ってね。んじゃねー」
軽く別れを告げて二人は背を向け合い、別々の通路を歩いて行く。
互いに思う所は違ったが、それでも先の戦に求めるモノの為に思考を重ねながら。
「お母さん!」
普段の少女の姿からは想像も出来ないような飛び切りの笑みを浮かべ、寝台に横たわる一人の女性に近寄っていく。
女性はそれを見て微笑み、読んでいた本を閉じて少女の方を向き、
「いらっしゃい、夕」
優しく
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