糸括り 凪
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道端で不意に蹴り飛ばした石を見て、もう一度蹴ろうと思うことは少ない。
小さな頃は繋がりや意味など特に意識はしていなかった。学び舎から帰る途中、蹴り飛ばした石を意味もなく蹴って帰りもした。
草はらに紛れて無くせば負けで、小さく蹴るのも負け。家に着いたら小さな満足感を胸に意味もなく遠くに飛ばした。
知識を得、世界を知り、庇護は消え。自分で動かねばならなくなった。
何をするにも意味を求め、価値を探った。
その価値は己へのではなく、他への。
誰かが、ではなく自分が生きるため。社会で生きるとはその一員になることで、どこかに与える者がなければ受けるものもない。
それは金であり、安全であり、それ以外もまた同じ。
得るならば何かを与える役割を得ねばならず、運営に対するその役割の名前を歯車と、そう称した者もいた。
価値なき行いなど幼少時だけの特権で、世界の中心が自分だと本気で思えた頃の無邪気な驕り。
意味を求め……意味などないのだとかつての自分へ言い訳をし、前へと歩んでいく。
自分への言い訳など一切考えなかった頃に目を瞑り、忘れた価値観を無価値と断じて忘却の彼方へと追いやっていく。
忘れたのではなく傷つき摩耗したそれを、忘れたと言いはって。
蹴り飛ばした石を踏みつけて、変わらない一歩を前へと踏み出す。
忘れたから、ふとした拍子に思い出す。
摩耗したから、朧げで形がもうない。
感傷、
と。
残された傷跡だけを感じて原型を想像するのだ。
小さな頃、いったい己は何をしていただろうと思うことがここ数日増えた。
あの幼子は対外的にはやはり弟子という形になるのだろう。今まで誰かを教えたことなど無い身として探るのは己の体験であり、在りし日の記憶だ。
何をすればいいのかと、手がかりを探すために意識を過去に飛ばすことが多くなった。
ある程度以上の腕を持つ者は後身の育成に力を入れるものだ。だが、ただひたすらに自らの腕を磨くことを考えてきた故にその経験はない。そもそもあの歳から教えることを想定した本があるとも思えない。
ならばと過去の己の焼きまわしをと思うても、陽炎のようにゆらゆらとして実態が掴めない。知識だけで記憶として追従してこない。その知識も朧げだ。
聞きに行く、というのも手の一つなのだろう。久方ぶりに親の元へ。
だがあの父親が、自負心に潰れた武芸者が、その時の事を覚えているのか自信など欠片もない。
子から背を向けた男にかつての親子の営みを思い出せ、などと。
気が晴れると思って決めた事だが、世の中そう簡単に行くものではないらしい。
なるようにしかならないのだろう。ならばまあ、目の前の事を対処していくのが道理なのだろう
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