第一部
第二章
負けないから。
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一緒にいられれば、あとはどうでもいい。」
そう言うと、真里は嬉しそうにはにかんだ。祐二も改めて自分が言ったことの重さを思い知り、真っ赤になった。
「行こうか。」
「うん。」
二人は歩き出した。校門を出たとき、真里があっ、と声を上げた。
「雪…」
空を見上げて、祐二も声を上げた。雪が降っていた。もう三月の上旬だというのに、真っ白な牡丹雪がこの町に降っている。
ひんやりとした雪が肌に触れ、慌てて祐二は折りたたみ傘を引っ張り出した。すると、真里は身を寄せてきた。
「入れて。」
「真里、傘持ってないの?」
今日は、天気予報で曇り後雨だと放送されていたはずだ。
「持ってるよ。持ってるけど、入れて。」
言いたいことがわかって、祐二の胸は高鳴った。そっと優しく、傘を真里へと寄せた。真里が腕を取った。町の人に見られるのは恥ずかしかったけれど、そんな羞恥はドキドキが覆い尽くしてしまった。よれよれの折りたたみ傘はなんだか頼りなかったけれど、それはたしかに二人を守ってくれた。
「今度は、駅まで送ってくれるよね。」
「うん。」
祐二は頷いた。初めて会ったときは、この動悸に負けて、逃げ出してしまった。けれど、今はもう違う。大好きだ、という気持ちを真里と分かち合い、共にある。そして、前より、ちょっぴりだけれど、強くなっていた。
「あったかい…祐二の手って、こんなに温かかったんだね。」
真里は祐二の手を握って言った。
「雪だからだよ。」
照れくさくて、祐二は言った。
「ううん。違うよ。」
真里は首を振った。
「そ、そうかも。真里といるから。」
「こ、の、色男めー。」
たわいもないやりとりをしながら、二人は歩いた。祐二は、これが幸せなんだ、と感じた。当たり前のようにそこにあるものが、実は一番幸せなものなんだ、と祐二は気付いた。それを失うのは悲しい。果てしなく悲しいけれど、悲しみが多いだけ、成長できる。そのことは誰よりも、彼自身が知っていた。
二人は駅に着いた。急に訪れる痛切な想いに、身も心も引き裂かれそうだった。
「僕、さ…真里に会えて本当に良かったよ。」
祐二は、まっすぐ真里に言った。天野の言う通りだ。真里には、たくさん幸せをもらった。
「あたしもだよ。祐二…んっ……」
二人は抱き合って、長いキスを交わした。温かくて、甘い感触。ずっとそばにいたい。別れたくない。だから、二人はしばらく、そうしていた。
「また明日。」
真里は切なげに言った。
「うん。また明日。」
そう言うと、真里は改札の人混みの中へ消えた。
また明日、いつも交わしていた言葉。それも、今日が最後だった。
とっても、大切な時間だった。祐二は、改めて、真里と共有してきたものの価値がいかに高かったかを実感した。もっと大切にするべきだったかもしれない、と、
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