第一部
第二章
夏休み
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先に帰る。』
いい友達を持った―祐二はなんだか嬉しくなった。
「花火を見ると、なんだか懐かしい気分になるんだよね。」
と、真里は言った。夏の夜空には金色の花火が浮かんでいた。どうやら花火大会も佳境のようだった。色とりどりの炎の花が、巨大な空のキャンパスへと打ち上げられる。それは、増幅した二人の恋を祝福するかのように、空を彩っていた。
「うん。僕も。」
なんだか、少年時代に自分が投影されるような、そんな気がする。
「でもね。それが怖いんだ。無垢なころを懐かしんじゃってる私がいる。夢に満ちていたはずの将来に、うすらうすら不安が見え始めたんだ。」
「わかるよ。」
子供とも大人とも、どこか違っている自分がいる。何にもなり得ない自分がいる。行き場さえわからない自分がいる。大人はいろいろな名前を付けてそれを呼ぶけれど、どれもなにかがずれている。変わっていく自分が、不安でたまらない。
「夏も終わっていくんだよね。」
切なげに、真里が言った。気持ちはわかる。夏の喜びに溶けきれない。終わる瞬間への恐怖が必ず頭に入ってくる。
「夏の終わりって、他の季節と、何かが違う気がする。」
そう言うと、ドーンと大きな花火が上がった。いよいよフィナーレだった。暗黒のはずの世界が、金色に染まっていく。人々の心も、同様に。
「たぶん、秋の短さや、冬を知っているからだよね。凄く、切ない。」
真里の瞳に、また涙が浮かんだ。これ以上、悲しくなってしまわないよう、真里の肩に手を回した。これ以上、寂しくなってしまわないよう、祐二は話した。
「僕さ、小さいころ、お祭りが終わっていくのを見て、悲しくなって泣いてたんだ。公園がだんだん静かで真っ暗になっていくのが、どうしても嫌で。母さんが困ってたから、町会長さんに怒られちゃって。僕、本当は弱虫なんだ。
それでも、君と一緒にいると、終わりは切なくても、ちっとも寂しくない。真里が大好きなんだ。すごく気持ちが温かくなる。僕たち、ずっと一緒にいよう。」
「うん。私も大好き。ありがとう。」
真里はただただ、祐二の肩で泣いた。祐二はその間、ずっと手を握っていた。祐二もまた、瞼の奧が焼けるように熱くなっていたが、必死で堪えた。二人でいるときは、悲しい涙は流したくなかった。
花火大会は終わって、次第に静かな波音が耳に届き始めた。見上げると、無数の星が夜空に浮かんでいた。もうそろそろ、帰るころだ。
「あっ。流れ星!」
真里が叫んだ。
「あっ。また。」
今度は祐二も見つけた。星空が一瞬瞬いた。二人は見つめ合った。
「願い事は、叶ってるからいいよね。」
手を繋いで、二人は駅に向かった。曇りなき星々を眺めながら。
天気予報は、曇りのち晴れ。
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