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虹との約束
第一部
第二章
夏休み
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の、祐二と時を共にしていた彩に、強い嫉妬が芽生え始めた。その重苦しく偏屈な憎悪を一瞬真里は胸中に感じ、夕日に溶けきっていた彼女の心を、不安と怒りの世界へと陥れてしまった。
 夕日が沈んで、夜になった。
 夕食を取るべく、四人は近くのレストランへ向かった。海が見渡せる品のいいレストランで、直哉が調べたところだった。
 海が見える窓側の席に四人は座った。繁忙期も顧慮して、メニューはあらかじめみんなで予約してあった。ただ一つのメニューは、その中でも特別だった。
 食事が来るまでの間、四人は海を見て過ごすつもりだった。だがどうしても祐二も彩もそわそわした気持ちを隠せず、目をあちらこちらに向けたり、足を揺すったりした。
 そんな中、祐二は、真里が黙り込んで俯いているのを見つけた。振り返れば、今日はずっとそうだった。とってつけたような笑顔を浮かべて、心はどこか遠くに行ってしまっているような。動作は全く変わりはなかったけれど、それでも、祐二にはわかった。
「どうしたの。真里。元気ないよ。」
祐二はついに尋ねた。そして、机の上に置かれた、ほのかに赤い手に触れようとした―
 が、その手は振り払われた。
「真里?」
「うかつに触らないでよ。」
真里はそう言った。
 唐突な拒絶に、祐二は困惑するばかりだった。真里は続けた。
「愛想つかせたならはっきりそう言ってよ。」
思ってもみない言葉がぶつけられた。真里の頬が小さく震えていた。よっぽど怒っているのだろう。決して絶やすことのなかった笑顔も、今は憤った表情へと変わっていた。
「どうして?」
「知ってるんだよ。今日一日ずっと、彩とこそこそ話をしてて。私と目が合うたびに、拒むみたいにして。飽きたならはっきりそう言えばいいじゃない!」
真里の言葉は静かだったが、迫力があった。その威圧に、祐二はすっかりまいってしまった。自分がこんなにも彼女を追い詰めていたのだ、と、自責の念にかられた。ごめん、という言葉も出せなかった。
 周りの乗客が、怪訝そうにこちらを見ていた。海と時計の針の音が、残酷なまでに耳に響いた。
 そんな折り、直哉が言った。
「これは、腹が減ったな。」
「そうね。お腹が空くといらいらするし…」
彩も続いた。
「私は別にお腹が空いているわけじゃ―」
「お願いします。」
直哉が店員に合図した。祐二は心の栓が取れるのを感じた。照れくささと申し訳なさで、真里を見ることはできなかった。
 そしてついに、例の物が運ばれてきた。
 真っ黒に焼けた店員が、笑顔を浮かべて持ってきたのは―
 バースデーケーキだった。
 真里は唖然としてそれを凝視していた。今度は、真里が驚く番だった。
 ずっとずっと前から、祐二達はこの計画を立てていた。誕生日を幸せに、といい観光地を探し、レストランを探し、
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