第一部
第二章
夏休み
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くれることになっていた。夏休みとはいえ平日の午前九時なので、人は少なめだった。
「ねえ、なんで馬?」
真里が尋ねた。
「あいつの座右の銘は、人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ、なんだよ。」
言うのも恥ずかしかった。まったく、とんでもないやつだ。一樹を誘うこともできなくはなかったけれど、あいつは一年先取りの受験勉強をしているらしい。やむをえない。
「信じられない。あいつ。」
「まあ、仲良くやってくれよ。」
てんてこ舞いの海遊びになりそうだ、と祐二は呆れながら電車に乗り込んだ。
電車の中で、真里は深刻だった。
脳裏に駅前での彼の姿が蘇る。いや、彼と、彩の。
何か耳元でささやいていた。至近距離だった。特別な関係なんじゃないかと不安になる。恋人関係であることを知っていたのを気にしていたし。
電車のカタンコトンという単調な音が、真里の思考に一つの帰結をもたらした。
もしかして、浮気?
そんな疑いが生まれた。そして彼女の心の底に、重い静かな怒りが溜まり始めた。
そんなことはいざ知らず、一行は海に到着した。
「うわぁ…きれいだね。」
着くやいなや、うっとりした声で、思わず祐二は声を漏らした。
「うん。」
三人も応じた。
入道雲を背景に、水平線がまっすぐ伸びていた。眼前には小麦色の海岸が広がり、人々がそれぞれの海を満喫していた。その白い世界の端っこでは、薄青い海の水が大地と海を隔てている。夏の日の光は燦々と降り注ぎ、波打ち際に白い光を点々とさせていた。
一行の心を動かしたのは、景色ばかりではない。ザアザアと打ち寄せる波の音、懐かしいような海の匂い、海辺の喧騒とカモメの声も、彼らの心を沸き立たせた。
「結構人がいるね。それに、広ーい。」
彩が楽しそうにはしゃいだ。
「乙女チックな一面もあるんだな。」
嫌みっぽく直哉が言った。電車の中でも、ずっと小声で論争していた。もう少し人選に気を遣うべきだった、と今さらながら祐二は後悔した。
「もうやめようよ。せっかく来たんだから。」
真里が制してくれる。誘っている側としては、非常に申し訳ないような気がした。
「とりあえず、着替えようよ。」
そう言うと、一旦男女に別れて、海の家の更衣室へ行った。
水着を着ているとき、直哉の尋問は熾烈だった。
「なあ、お前、いつどうやって告白したんだ?」
最初は、そんな質問だった。
「いつって…七月かな。」
「ってことは、まだ一ヶ月?おおお。初々しいねえ。」
「ジジくせえんだよ。」
「デートは、たくさんしたか?」
「デート?いや、あんまり…」
「じゃ、付き合ってても意味ねえじゃねえか。」
「いや、お互い好きってわかってんのと、わかってねえのとでは…って何を!」
いつの間にか心の奥底のことまで話し
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