第一部
第二章
夏休み
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夏休みになった。
ある夜、祐二は携帯電話を汗だくの手で握って、電話をかけるかかけまいか迷っていた。扉も閉めていて、ベッドの上でタオルケットもかぶっている。家の人に聞こえる心配は全くなかったけれど、その先に、緊張という壁があった。ちゃんと話せるか、ぶきらっぼうな口調にならないか、真里は不快に思わないか、と幾多の迷いがあった。
付き合っている、そう、付き合っているんだ。
なにも躊躇うことはない。祐二はそう思って、ダイヤルを押した。メールをすればよかったけれど、声が聞きたかった。夏休みが始まってから一週間、一度も声を聞いていない。
プルルル…
呼び出し音が鳴っている間、躊躇、期待、希望、恐怖、高揚、と無数の感情が交錯した。
「もしもし。井原?」
声が鳴った。急に胸がドキドキした。汗でしおれたメモ用紙を手に、祐二は話した。
「お、おう原崎。ひ、久しぶり。」
「こんばんは。久しぶりったって、毎日メールしてるじゃない。」
「そ、そうだよな。ははは。」
なかなか言いたいことが言い出せない。こんなんじゃだめだ。祐二は息を吸った。
言うしかない。じゃなきゃ、何も始まらない。
「あ、あのさ、今度、海…行かないか?」
「海?」
真里がきょとんとした声で言った。首をかしげる仕草が目に浮かぶようだった。
「う、うん。日帰りでさ。神奈川のビーチで、一時間ちょっとで行けるんだ。」
「へえ。いいねー。」
「うん。直哉や冨原たちも誘ってさ。」
「彩ちゃん?」
一瞬、真里の声が低くなったような気がした。
「い、いけなかったかな?」
祐二は狼狽えた。真里と彩は親友だったから、飛びついてくれると思ったのだ。
「いや。ぜ、全然いけなくなんかないよ。いつごろ?いくらくらいかかる?」
「八月十七日はどう?月曜日だし、部活は休みだよね?」
「え、うん…大丈夫だよ。じゃ、その日に行こうか。」
真里はちょっと驚いたみたいだった。
「よかった。じゃあ、十七日の九時に、駅の西口で会おう。お金については、二千円弱あれば大丈夫だから。じゃ、じゃあまた連絡するね。」
祐二は今にも胸が爆発しそうだった。彩に部活の予定等を聞いて万全を期していたため、OKには確信に近いものがあった。けれどいざ、五日後に真里に会えると思うと、もういても立ってもいられない心持ちだった。
「ね、ねえ井原。」
そうして祐二が「切」スイッチを押そうとしたとき、真里が呼んだ。
「なに?」
「あ、あの…二人っきりの時は、真里、でいいから。っていうか、真里って呼んで。」
「いいの?」
祐二は尋ねた。付き合っているとはいえ、女の子を名前で呼ぶなんて、祐二には考えもしなかったことだった。
「井原は、だめ?だめだったら…」
「い、いや。全然。じゃ、じゃあ、僕のことも、ゆ、祐二で
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