第一部
第一章
衝突
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真里を除いて、全員だった。天野の恐ろしさは、こういうところだ。祐二は自ら、クラスの裏大将の手中に飛び込んでしまったのである。
「ずっと一緒に話してただろ?」
長浦が肩を揺らす。祐二は絶望して、何も答えずにいると、
「どうなの?原崎さん?」
わざと“さん”を付けて、いやらしく天野が聞いた。そう、矛先がついに、真里に向けられたのだ。
「えっ、私は…」
真里が言葉を濁した。無理もない。否定的に応じれば祐二が傷つくと、応じるにも応じられないのは当然のことだ。
もう、祐二は耐えられなかった。自分のせいで、自分に関して、思いをよせるひとを危機に追いやっている。
真里が危ない。
真里が危機だ。
祐二の中で、警報器が作動した。そしてそれは、あらゆる障壁と躊躇を決壊させた。
「お前らいい加減にしろよ!クラス中に変な噂広めてんだろ!」
祐二は皆を睨み付けた。これでもかというほどに、鋭く睨み付けた。
しかし相手とて、そう軽い連中ではない。
「だって二人きりで一緒に、手を繋いでたんだろ、こりゃあ確実だろ。」
長浦が笑う。その笑いで、祐二の怒りは爆発した。その熾烈さゆえに、頭痛さえ生じた。
「何だよお前ら。一緒にいただけで。何が付き合うだよ。バカにしてんじゃねえぞ!お前らが勝手に自閉して、取り残されないために、人を取り残してるだけじゃないか!」
祐二は激昂した。悪戯な笑みも、言葉も消えて、教室が突然静かになった。クラス中が、まるで爆弾でも見るような慄然とした目でこちらを見ていた。そしてその目には、微かだが確実に、差別や嫌悪の情もが湛えられていた。祐二は、全てが不快だった。この複雑な空気。自分が異端の人となったことが、痛烈なまでに感じられた。
静寂の中、清掃は続けられた。何気なく報告を済ませ、誰一人沈黙を破らずに帰った。その間、祐二は一瞬怒ったことを後悔した。が、もしそうしていなかったら?真里を詰問の嵐が襲っていていたことだろう。やり場のない不確かな後悔を、祐二はいたずらに抱えることとなった。
それから数日の間、二人は離れて過ごした。
そしてある日の夜中、突然に彼女からメールが来た。耳に懐かしい携帯のバイブ音に、祐二は若干の緊迫と歓喜を感じた。しかし、最愛の人からのメッセージは…
「この前はかばってくれてありがとう。私のせいだよね。ごめんなさい。
みんなの誤解が解けるように、私頑張るから。本当に、ごめん。
学校では避けちゃってるけど、祐二は大切な友達だから。それは忘れないで。
今度、二人だけの時に、ゆっくり話そう。」
それで終わっていた。
祐二の涙が一粒、小さな携帯電話へ落ちた。
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