第一部
第一章
修学旅行
[1/2]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
修学旅行
祐二は思い出す。告白に失敗した瞬間だった。
京都、奈良。歴史が苦手な創作者が修学旅行を綴っても仕方がないので、その瞬間の出来事だけを綴ろうと思う。
告白に失敗した場所。それは源光庵だった。
天井に付着した血痕で知られるその建物を、真里はひどく恐れていた。
「井原は怖くないの?」
彼女は尋ねた。いつもきらきら輝いていた瞳は、今重い光を放っていた。姿勢もいつになくしゅんとしてしまって、なんだか真里じゃないみたいだった。
「血が付いてるだけじゃない。」
祐二は笑った。別にたいしたことじゃない。それに呪いや幽霊は信じていなかった。
「勇敢って言うか鈍感って言うか…」
「何だってー。」
祐二は軽く睨んでみせた。そんなことを言うくせに、真里はそばから離れなかった。変な疑いをもたれたら困る、けれどそれはそれで嬉しいような、という矛盾した二つの感情を胸に、祐二は時折男子の群れの方にちらちらと目をやった。焦燥にかられて速めに歩こうとすると、真里は慌てたように言った。
「ごめん。あ、あんまり離れないでよ。」
「いいよ。」
祐二は彼女の微笑ましい一面を見てなんだか嬉しくなった。
にやけている祐二を見てか、真里は小さく叫んだ。
「ねえ、見て。あの血痕、今動いたよ!」
「え、え、どこどこ?」
隙を突かれて慌てふためき、祐二は思わず足を滑らせた。あっという間に仰天した。
「痛っ。」
祐二は頭を掻いた。真里が大笑いをしている。見れば、周りの生徒もクスクス笑っていた。
「滑りやすいのでご注意ください。」
見ると、ガイドの方が冷静な声で注意を促している。祐二は真っ赤になってしまった。
「ふふふ。五十歩百歩だね。まあ無理して怖いとこにいることないや。外の庭行こうよ。きれいだよ。」
真里は祐二の手を引いた。ここにいるよりはましだと、慌てて起き上がって彼女についていく。遠くから突き刺さる生徒の目にも気づかずに―
庭に出ても、真里はまだ笑っていた。
「笑いすぎだよー。」
祐二は憤慨した。
「ごめんね。あまりにもおかしくって。でもまあおかげで怖くなくなったよ。」
彼女は微笑んだ。それを見ると、全てを許せる気がした。
「まあいいや。」
祐二はそっぽを向いた。庭から吹き付ける風が、祐二の髪を揺らした。自然と心が落ち着いていく。時間と風の力は偉大だった。
「ふふふ。でも好きだよ。井原の素直なところは。」
真里が笑った。転んだとき以上に、照れくさくなった。
「ありがとう。僕も…」
と、言いかけてやめた。近くに人影を感じたのもそうだが、今、自分の気持ちを伝えて、彼女を失うのが怖かった。せっかく落ち着いてきたのに、また心臓が高鳴っている。
彼女が首をかしげている。
「僕も…えっと、僕も…写真撮ってくる。」
そう言
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ