第一部
第一章
初デート
[4/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
いよ。って、意外とって何だよ。」
なんだかくすぐったいようで、視線を窓の外に移した。ついつい笑ってしまった。とりとめもない話をしている間に、バスはどんどん進んでいった。
バスは草原公園前のバス停で止まった。蛍の祭典と看板が建てられていた。
「着いた〜」
真里はバスから降りて、思い切り深呼吸をした。
「ごめん。バス苦手だった?」
そっと尋ねる。
「えへへ。よく酔ってたけど、今日は井原と話してたから全然大丈夫だったよ。」
彼女の笑顔に魅せられながら祐二は共に会場へと入った。途端、温かい光に満たされた世界が、視界に飛び込んできた。
「うわああ。きれーい。」
彼女が歓声をあげる。祐二も同じように感心していた。これが、蛍。なんて温かい…
「星空を近くで見てるみたいだね。」
祐二は思わずそう言った。小さな無数の光が草原を飛び交っているさまは、まさにそのように見えた。
「やっぱロマンチストじゃん。でも素敵だよ…誘ってくれてありがとう。」
真里の瞳がまっすぐと祐二を捕らえた。蛍の光に照らされたそれは、どんな宝石よりも美しく輝いて見えた。
「ううん。来てくれてありがとう。ちょっと見てみようか。」
祐二と真里は、星空の中を歩んだ。優しい光は祐二達を取り囲み、挨拶するようにぽっと照った。もちろん空には無数の星々が―
ちょこんと祐二の指先が真里の指先に触れる。それを返すかのように、真里の指先が突き返す。そしてその指先は、自然と繋がっていく。
「温かい。」
真里が笑った。祐二はどこか気恥ずかしかった。
「あ、祐二君。おおお。お似合いの格好だね。」
見ると、叔父が通り過ぎていった。彼の言葉につい赤面する。
「何赤くなってんのー。社交辞令でしょ。社交辞令。」
真里が笑った。祐二はほっとしたような、残念なような、とにかく、祐二は叔父を恨んだ。恨みながらも、ちょっとだけ感謝した。
幸せな時間だった。大好きな人の温もりを、左手に感じる。愛しの人が、たしかに今、傍らにいる。二人で、手を繋いで、星空のような世界を歩いている。まるで夢のようだった。祐二は、できることならこのままずっとこうしていたいとさえ思ったが…
草原公園を一周すると、もう夜遅くなった。
「もうだいぶ遅くなったね。どうする?」
祐二は尋ねた。
「うーん。もうちょっといたいけど…仕方ないね。絶対また来ようね。」
真里が言った。祐二も頷く。二人は草原公園を出た。
「うわっ。暗い。」
祐二はつぶやいた。蛍の光も、照らし出す光もない。改めて夜の深さを知った。
「なんだか夢から覚めたみたいだね。」
「うん。」
二人はバスに乗った。帰路をまっすぐ、バスは進んだ。
二人は気づいていただろうか。
夢から覚めたあとも、繋がった二人の手には、無数の夢と希望が握られていた
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ