第一部
第一章
初デート
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ながらだと、ようやく誘うことができた。
「近くで…蛍の…鑑賞会があるんだけど…そ、その…招待券が二枚あって…」
そこまで言って、祐二は俯いた。なんだか恥ずかしかった。ドラマみたいに格好良くは誘えないものだ。胸がドキドキして、ついおろおろしてしまう。女の子を誘うなんて、初めてだった。なんでもないようなことなのに、心も体も凍り付いている。
「蛍!もう蛍の時期なんだね。いいなあ…」
夢見心地にパンフレットを眺める彼女を見て、祐二は剛毅果断した。
「原崎、一緒にどう?僕と。」
祐二は彼女の瞳をまっすぐ見つめた。夕日に照らされて、それはきらきらと輝いていた。
「えっ。私を誘ってくれるの?」
真里は微笑んだ。祐二は頷いた。
彼は集中した。彼女の答を聞くことだけに。あらゆる雑音が消えた。
「ありがとう。一緒に楽しもうね。」
「本当に?来てくれるの?」
「うん。」
祐二は叫びたい気分だった。体育祭で優勝したときとは比にもならない、底知れぬ喜びを感じた。
「あ、ありがとう。」
それから何をしたか、祐二はもう覚えていない。ただ連絡用にメールアドレスを交換し、駅で別れ、家に帰って至福に身を寄せた、それだけだ。何を話したのか、全く覚えていない。しかし、そんなことはもうどうでもよかった。大事なのは、彼女と同じときを過ごせるようになったこと、それだけだった。
当日、祐二は精一杯のオシャレをして、待ち合わせ場所に向かった。駅前のバスターミナル。その中の一つ。隣町までまっすぐ走るバスの停留所だ。
五分も早めに来たのに、真里はもう待っていた。祐二は仰天してしまった。本当に真面目な子なんだなと思った。
「ごめん。待たせちゃった?」
祐二は慌てて駆け寄った。
「ううん。今来たばっかり。」
彼女は言った。祐二はそう信じることにした。
バスが来るまで、時間があった。
「…夜の街もきれいだね。」
祐二は静けさが嫌で話しかけた。街灯、ビルの灯り。物騒な世の中のせいで夜にいい印象を持っていない人も多いけれど、こうして眺めると、夜も悪くなかった。闇である夜が美しいのは、社会が豊かな何よりの証拠だった。
「うん。」
彼女も頷く。
ようやくバスが来た。二人分の料金を投じて、後部座席に座った。自分で払うと彼女は言ったけれど、誘っておいてそれはないと思って、やめてもらった。
「蛍、楽しみだね。」
彼女はそっと祐二に身を寄せる。もっとも、それは祐二の解釈に過ぎない。バスの座席が狭すぎただけなのかも。
「うん。蛍、見たことあるの?」
蛍に強い興味を抱いているようなので聞いてみた。
「ううん。本や映画の中だけ。初めてだから楽しみだなー。それにしても蛍観賞に女子を誘うなんて、井原意外とロマンチストだね。」
彼女は笑う。
「そ、そんなんじゃな
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