第一部
第一章
初デート
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を感じた祐二は、直哉を問い詰めた。
「だ、だから法事と言ってるだろ。」
直哉は苦笑いをした。梅雨の季節にもかかわらず、今日と明日は晴れる見込みということで、絶好の日だったのに。
「お、おい。一人で行けっていうのかよ。」
祐二は困惑の色を隠せなかった。また考えを、誰を誘うかに戻さなければならない。
「大丈夫。愛しの君がいるだろ。」
直哉は笑った。
「お、おい。何言って…」
「頑張れよ。」
直哉は祐二の肩を叩いた。何にもわかってないくせに、何もかもわかっている彼を、祐二は心から軽蔑した。
学校が終わって、祐二は真っ先にあの交差点に向かった。真里に出会った場所だ。誘おうと思って行ったわけではない。祐二はまだ迷っていた。この際行かなくてもいいかと思うほどだった。叔父にチケットを貰ったときの義務感は、とうの昔に消え失せていた。
でも、別の義務感が芽生えた。直哉の言葉から、真里に会わなければ、という義務感だった。緊張と期待の入り交じった、不思議な心境だ。
雨は降っていなかった。あの日とは大違いで、多少雲があるものの、夕焼け空が街を染め上げて、人々の心を和ませていた。一日が終わるというだけなのに、どうして夕日を見ると、こんな切ない衝動に駆られるのだろう。日本人の哀愁というものだろうか。
そうして夕日を見ていると、時間はあっという間に過ぎていった。遂に太陽の端っこが地平線に沈み込んで、さよならとでも言うように最後の光を発した。祐二の影も伸びに伸びて、交差点の反対側まで届きそうだった。
「もう来ないかな…」
早めにここに来たつもりだったけれど、もう真里は先に帰ってしまったのかもしれない。
はあ
祐二は溜息をついた。そうして鞄の取っ手に力を入れ始めた、その時だった。
交差点から続く坂道の上に、一人の女性のシルエットが浮かび上がった。鞄を持っている。そよ風に髪を揺らしながら、こっちに近付いてきた。
まだ彼女とわかったわけでもないのに、祐二は高揚を感じた。なぜか確信があった。古代より人が受け継いできた、愛という名の本能だった。
次の瞬間、女性は手を振ってきた。向こうからはこちらが見える。真里に違いなかった。祐二も手を振った。
「井原。どうしたの。こんなところで。」
真里は首をかしげた。間近で彼女を見ると、すごくドキドキするけれど、心かポカポカと温かくなった。
「待ってたんだ。」
祐二はそう言うと、彼女と共に歩き出した。動悸は決して止まることがなかったが、なんとか冷静であろうと、祐二はありったけの精力を費やした。
「ははは…どうかしたの?」
「い、いや…その…」
説明して誘うのはなんだか照れくさいので、パンフレットに頼ろうと思った。
叔父が渡してきたのと同じようにして、クリアファイルを彼女に差し出す。差し出し
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