第一部
第一章
出会い
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てきた。きれいなその瞳でまっすぐ見つめられると、なんだかくすぐったいような気がして、祐二はぱっと目をそらした。
沈黙が訪れた。それが数秒だったのか、数分だったのかはわからない。祐二の頭はフル稼働した。だが、胸がばくばくと高鳴っている中だったので、フル稼働で考えても、本来の目的に到達するまで時間を要した。
「ほら、これ。風邪・・・ひくぞ。」
なぜかそっけない態度になってしまう自分を恨みながら、彼は傘を真里に差し出した。冷たい雨の感触が、頬に伝わってきた。
「い、いや。いいよ。それ、井原君のでしょ。」
真里は手を振って遠慮した。
「そ、そうか。」
改めて傘を自分のところに戻す。ちょっとがっかりしたようで、また元の居場所に戻った、という安堵も含まれた、そんな心境になった。
「うん。」
真里が前に向き直ったので、祐二は改めて彼女を見た。きれいなロングヘアーに雨がしたたっている。
「や、やっぱり貸すよ。」
間違っていると思った。雨の中、女の子を一人置き去りにするのは気が咎めた。
「ええ、本当にいいの?でも井原君が濡れちゃうよ。」
真里がまた振り返った。今度は目をそらさないよう努力した。目をそらしたら負けのような気分だった。
「大丈夫。僕は走って帰る。」
そう言って祐二はまた傘を差し出した。
「・・・。それじゃ、さ…あの…その…」
にわかに真里が口ごもった。
「どうした?」
祐二が尋ねると、真里は上目遣いで言った。
「あ、あの…じゃあ、相合い傘しよう。方向一緒だよね?」
たしかに、祐二と真里の帰り道は重なっていた。
だが、祐二は困惑した。相合い傘。男同士ならいい。親しい人となら別に構わない。でも、同年代の女の子となったらわけが違う。祐二の頭の中では、相合い傘=カップルというような先入観があった。いや、それは祐二だけではない。真里も俯いていた。それでも、自分だけだと悪いと思って、気を遣っているようだった。
だが、話したことでだろうか。祐二の胸の高鳴りが鎮まってきて、正常な判断能力が彼に戻ってきた。
「い、いいの?僕となんかで。」
その判断能力のおかげで、祐二はぶっきらぼう口調でなしに、普通の話し方で話せるようになった。内心祐二はほっとした。
「うん。いいよ。井原君なら。」
真里は渡した傘をそっと持ち上げて祐二にそって歩き始めた。せっかく落ち着いてきたのに、再び祐二は緊張してきた。それもこれまでにないほどに。
井原君なら、って…
変にポジティブな考えが浮かんだので、祐二は思い切りそれを振り払った。
「あ、ありがとう。」
何か言わないと気が落ち着かないので、祐二はそう言った。ありがとう、と言いたかったというよりは、タイミングにそって出てきた言葉がそれだった。
「ふふっ。礼を言うのはこっちの方だっ
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