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虹との約束
第一部
第一章
出会い
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 二年前のあの日、祐二は中学二年生になった。思春期の入り口となる年齢層。学生側から見ても、第三者から見ても、変動の大きい、厄介な時代だった。
 そうやって大人になっていく時代の中で、希に見る美貌の持ち主であった彼女に、祐二が恋心を抱いたのは、一目惚れといえど必然的なことだったと思う。
 だが、祐二は、時を経るごとに、その一目惚れが美貌に惚れただけの、一時的なものではなかったということを思い知っていった。
 同じクラスとはいえ、ほとんど彼女とは接点がなかった。そんな中、初めて彼女と話したのは、ある町外れの交差点だった。

 その日は雨だった。祐二は小さな折りたたみ傘で雨をしのいだが、町の多くの人々は、突然降り始めた雨に右往左往していた。コンビニのビニール傘も底を尽き、走る者、建物の下で雨宿りをする者、車に駆け込む者、いろいろだった。
 祐二は灰色の空をぼんやりと眺め、ゆっくり歩いていた。いつもは部活の仲間と一緒に帰るのだが、彼らは今日、数学の追試を受けていた。待っていることもできたが、それはひどく時間の無駄に思えてならなかったし、友達と一緒にしか帰れないと言っているようで嫌だった。だが対して、強がってもやっぱり独りは嫌なもので、彼は強がったことを半ば後悔し、半ばこれでいいんだと信じようとしていた。
 そんな中、祐二は交差点の横断歩道の前に、同じクラスの生徒が立っているのを見た。
 
 あれ、彼女は―原崎だったかな?
 
 雨の中でも、真里はきれいだった。その姿はすぐさま思春期の青年の、繊細この上ない琴線に触れ、祐二の心を奪った。
 彼女は傘を持っていなかった。
 祐二はどうしようか迷った。傘を貸してあげようと思った。が、今この瞬間心の底から溢れ出ている感情とは対の心、男女意識という名の壁が、祐二に立ちはだかった。
 話しかけようか迷っているうちに、自動車の信号が黄色に変わった。

 ど、どうすんだよ、おい…

 じっと自分の傘を見つめる。無数の雨粒が衝突し、重い音を立てていた。貸し出せば自分はびしょ濡れになるだろう。男女意識と戦ってまで貸すことはない…
 祐二は溢れ出す感情を抑えて、また平然と歩き出した。
 遂に信号が青にになり、真里が歩き出した。その瞬間、祐二は走り出した。理由なんてわからなかった。ただ、彼女が歩き出した途端、得体の知れぬ強大な圧力によって、祐二の決意は完全に変わった。今思い返せば、それは自覚せざる、運命と勇気によるものだったのだろう。雨の中、どんよりと重かったはずのその身体は今、羽のように軽かった。
 祐二は足が速かったので、すぐに追いつくことができた。
「原崎ー。」
そっと優しく声を掛けようと思ったのに、なぜかぶっきらぼうな口調になってしまった。
「あ、井原君。」
真里は振り返って祐二を見
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