反董卓の章
第16話 「大丈夫――行ってくるよ」
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ったか。すぐに追わねば」
ご主人様を呼びに来たであろう馬正さんが、馬を翻して前線へと向かおうとする。
「ま、まって! 馬正さん!」
「む? いかがされましたか?」
訝しげな顔で私を見る馬正さん。
――私は、ご主人様と並んで戦えるような武才も将才もない。
だから――
「ご主人様を………………護って」
「? それはもちろんお守りしますが……いかがされました?」
「あ、ううん……その」
――私は、こんなことすら人に頼るの……?
護るなら……ご主人様を助けるなら、私自身が前に――
「……あまりご心配めされるな」
「……え?」
不意に顔を上げる。
そこには穏やかに笑う、壮年の武人がいる。
「我らの主は天下無敵。たとえ呂奉先とておいそれと負けは致しませぬ。だが、それでも何かあるならば……この馬仁義が命を以ってお助け致します」
「……馬正、さん」
「だから……笑っていなされ。あなたの笑顔があれば、たとえ主が道に迷っても進むべき道を思い出させましょうぞ」
「……笑顔」
私の、笑顔、が……?
「古来より、男が道を誤った時、それを正すのは女性の真心と笑顔なのです。もっとも、今では女性のほうが強くなりすぎましたがな。はっはっはっは!」
そう言って快活に笑う馬正さん。
その様子に、少しだけ胸の不安が和らいだ気がした。
「うむ。例え男女の立場がどうなろうと、男を励まし、やる気にさせるのは女子にしか出来ませぬ。そして女子の想いを背に、路を往くのが男子の定め。天地開闢以来、それが変わったことなのないのですよ」
そう言って微笑む馬正さん。
――私は、この言葉を一生忘れはしないだろう。
「では、これにて御免!」
そうして馬を走らせる馬正さんの姿に。
私は深い感謝を込めて、頭を下げた。
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