第三章
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「だからな、たまには二人で」
「わかったわ。それじゃあ」
「場所は何処だ?」
「何処でもいいわ」
素っ気無いが素朴な言葉だった。
「二人でなら」
「そうか」
俺はその言葉をビールを飲みながら聞いていた。一本はすぐに空けてもう一本だった。どれだけ飲んでも飲める感じだった。それでも美味いとは感じなかった。
「わかったよ。じゃあ明日な」
「ええ、御願い」
御願いという言葉も何故か辛かった。俺はこっちに出てから何かずっと苦くて痛い気持ちだった。それがまた心の中を支配したのだ。口の中がビールのものじゃない苦さに覆われる。それを飲み込んでまた嫌な気持ちを味わうのだった。
次の日。銀座の方に出た。サングラスをして俺が誰かはわからないようにした。
「名前が売れると大変ね」
「まあな」
そう言葉を返す。見ればこいつの服は相変わらずだった。いつもいい服買えるような金はできたのに。けれどこいつはずっとこのままだった。
「それで。何処行くの?」
「あれ買ってやるよ」
何気なく俺が顔を向けたのはジュエルショップだった。
「何がいいんだ?」
「別に私」
みらびやかな店の入り口を見て急に口ごもりだした。まるでそんなことは考えていなかったように。
「そこまではいいわよ」
「気にするな」
俺はそう返した。
「金はあるからな」
「けれど別に」
「本当にいい」
俺はムキになって言い返した。自分でも感情的だと思ったが。6
「わかったな」
「そこまで言うんだったら」
納得してくれた。ようやくといった気持ちになった。
「御願い」
「ああ。じゃあ行くぞ」
「うん」
こうして俺は指輪を一つ買ってやった。けれどまた忙しくなってそれっきりだった。そうして指輪のことも当分忘れていた。
また曲を作ることになった。俺の曲はグループの中じゃそんなに多くはなかった。そういうのが遅い方なのでどうしてもそうなっていた。話が出たと思ったらそれはシングルだった。
「シングルかよ」
「ああ、どうだ?」
リーダーが俺に尋ねてきた。横にはリードヴォーカルもいた。
「御前シングルまだだったよな。だから」
「俺でいいのか?」
二人に尋ねた。一応念を入れてだ。
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