第二章
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第二章
「幸せよ。最高の人よ」
「そう。それだったらね」
僕も彼女のこの言葉を聞いてほっとした。ほっとするのと一緒に微笑んだのもわかる。自分の顔が緩んでいることがわかってきた。
「いいよ。それでね」
「貴方も幸せになってね」
「なるよ」
その微笑みのまま彼女に答える。
「絶対にね。なるから」
「お互いに幸せになるといいわ」
これが今の彼女の考えであり言葉だった。
「二人共ね」
「そうだね。二人共ね」
僕は彼女のその言葉に頷いた。
「幸せになればね」
「だから今は」
すっと距離が開いたのを感じた。
「これでもう」
「お別れだね」
「もう。二人で会うことはないわ」
別れの言葉だった。
「今度会う時は」
「僕の彼女紹介するよ」
微笑んでまた彼女に告げた。
「次にここに来た時はね」
「楽しみにしているわ」
彼女も笑顔で応えてくれた。その優しさが本当にうれしかった。
「その時をね」
「うん」
「私も」
そのうえで自分のことも言ってきた。このやり取りが僕達はもう絶対に二人では会えないことをはっきりと示していた。お互いに意識するしないに関わらず。
「私は三人になるけれど」
「そうだよね。三人だよね」
「五人でまた会いましょう」
二人にはなれない。どうしても。
「また。何時か」
「うん。何時かね」
僕もその言葉に頷いて答えた。
「会おう。それじゃあね」
「ええ。じゃあ今は」
「さようなら」
この言葉も自然に出た。
「またね」
「ええ。さようなら」
彼女もこの言葉を出してくれた。優しい微笑みと共に。
「また。会いましょう」
「うん。それじゃあね」
「ええ」
最後は手を振り合って笑顔で別れた。これで僕達は完全に終わった。恋人としては。
去年のあの夏のことは忘れない。あの恋のことも。けれどそれは幻。遠い遠い話になった。蜃気楼の様なものになった。もう何もかもが終わって思い出になって。そんな夏の恋だった。人魚姫はもういなかった。僕達は子供から大人になって。恋人同士でなくなった。そんな夏の別れのことだった。
ミセスマーメイド 完
2009・8・3
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