第四章
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第四章
「ずっとね。君をね」
「僕を・・・・・・」
「そして君を見つけて」
「それでだったんだ」
「そう。だからもう空に戻りたくはなかったんだ」
僕の背にある空を見上げての言葉だった。その青い、雲以外は何もない空を見上げていた。
「あの寂しい空にはね」
「そうだったんだ。それで空には」
「ずっと君の側にいたくて」
小鳥の声が寂しげなものになっていた。
「君の側にね」
「それで来てくれたんだ」
「全てが適ったから」
僕にはもうこの小鳥が誰なのかわかってきた。けれどそれはあえて言わなかった。
「だからね。君のことだけは忘れなかったよ」
「有り難う・・・・・・」
「それじゃあ。帰ろう」
小鳥は最後に羽ばたいたうえで声をかけてくれた。
「君の場所にね」
「うん」
僕達はまた二羽、いや二人で空に飛び立った。寂しい空も二人だと寂しくはなかった。そして空を飛んでいるうちに何か白いものに包まれて。気付いた時にはベッドの側で寝ていた。
「あれっ?」
「こんなところで寝ていたら駄目よ」
後ろからお母さんの声がした。僕は窓の側で椅子に座ったまま寝てしまっていた。気付くと肩から柔らかい毛布がかけられていた。
「風邪ひくわよ」
「この毛布お母さんが?」
「ええ、そうよ」
お母さんの声がした方に顔を向けるとお母さんがいた。穏やかな笑顔で僕に答えてくれた。
「寝てたからね」
「有り難う」
「御礼はいいわよ。それにしてもね」
「何?」
「窓のところに」
ここでその窓のところを見た。
「羽根があるわね」
「あっ」
見れば本当だった。そこには白い羽根が落ちていた。写真のかけらに木の実、それにボタンも側にあった。夢の中にある筈のものが。
「本当だ。羽根が」
「けれど鳥なんてずっといなかったのに」
「ううん、いたよ」
僕はこうお母さんに答えた。
「さっきまで。ずっとね」
「そうだったの?」
「うん、いたよ」
僕はまたお母さんに答えた。
「ずっとね。いたよ」
「お母さん見ていないけれど」
「それでもいたんだ」
僕の答えは変わらなかった。
「ずっとね。いたよ」
「そうだったの」
「有り難う」
僕はその窓のところの白い羽根を見てこう言った。
「ずっと。忘れないよ」
僕も忘れるつもりはなかった。彼のことを。今その白い羽根を見ながらそのことを思うのだった。静かで、優しい気持ちになって。一人思った。
鳥になった少年の唄 完
2009・2・18
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