第一章
at NIGHT 1st
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時間は午前一時、真夜中だ。
俺はランニング用の服に着替えてまさに家を出ようとしていた。
「にぃ? どしたの」
後ろから眠そうな梢の声が聞こえた。そっと動いていたつもりなんだけど起こしてしまったみたいだ。
「ああ、眠れなくてな。今から家の周りを走りに行くとこだ」
「こんな夜遅くに? 危ないよ」
「分かってるよ、梢。大丈夫だから」
「そお? ふあぁ、ねむねむ。待ってなんかいられないからね」
「もちろんだ」
そう言ってから梢の頭をグリグリと少し強めになでる。梢の頭は丁度手の届きやすいところにあるのだ。梢は「やめてよにぃ、もう子供じゃないんだからぁ」と言うが実はこういうときはあまり嫌がっていないのだ。本当に嫌がっている時は目じりが上がって少し口調もつんけんしてくる。
「じゃ、行ってくるから。早く寝ろよ?」
うん、と頷くのを聞いてから俺は外に出た。
真夜中でもやはり夏だ。肌寒さを全く感じない、どころか蒸し暑い。熱帯夜だな今日は。
さて、こんな時間に走っているのは眠れないからだと梢には言ったが実はそうではない。実際のところ眠くはないのだがそれには理由がある。
今日あたり何か起こるはずだと思ったのだ。なんとなく、本当になんとなく、しかしそれでも確信している。この手の感覚を俺は大切にしている。やっぱり人間は刹那的に生きなくちゃいけないと思うのだ。そうしたら気分が高まってしまって全く眠くないのだ。
さて、やっぱり最初は学校の方へ走るかな。
――そう、走る場所すら決めてないのだ。なんてあほらしい、と自嘲してみた。
「うう、なんか起こってくれよ、じゃないとこんな時間に走っているなんてバカバカしいからな」
家の明かりがついているところはすでに相当減っている。街灯の灯りだけが地面を弱弱しく照らしている。なんてことない風が少し物悲しい。なぜってその音意外に聞こえるものがないのだ。何もかもが消えてしまってこの世の中に取り残された気になる。
キーン、ガツン! シュッ
いや、何か音が聞こえてくるぞ?
丁度進行方向からその音は聞こえてきた。
「てことは学校か! 面白くなってきたぞ!!」
もうこうなったら善は急げだ。速く、もっと速く走らなければ。
学校に着いた。音は激しくなって、大きくなっている。
「やっぱりここから音が聞こえてくるな」
校庭から音が聞こえてくる。門は勿論開いていないので塀を乗り越えることにした。
逸る心を抑えて校庭に辿り着くとそこには今まで見たことも無い光景が広がっていた。
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