第T章:剣の世界の魔法使い
ドレイク
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もしあなたの姿が目撃されてしまえば、あなただけでなく、あなたの臣下までもが危険にさらされてしまう」
『もう良い。汝は我らのために尽くしてくれた。我はそれをうれしく思う。たとえわが身が、汝の所業によって滅びることとなろうがな』
「《王》よ……」
『……来たようだぞ』
「ええ。……では、私はこれで」
『うむ。また参れ。我は汝との会話を唯一の愉悦としているのだからな』
「そんな、恐れ多い……。……それでは」
***
《仄暗き森》はひっそりと静まり返っていた。モンスターの姿すら見えず、完璧なる静寂に包まれていた。ざくっ、ざくっ、と、シェリーナのブーツが地面を踏みしめる音しか聞こえてこない。少々不安になるが、それを振り払ってシェリーナは森の奥へ、奥へと進む。
さわわ、さわわ、と葉っぱがこすれて、かすかな音を立てる。風が冷たい。良く考えると、アインクラッドはあと一週間ほどでイトスギの月……11月になるのだ。寒くて当然だろう。全てが始まったあの日から、もうすぐ二年になる。現在の最前線は七十四層。マップが完成し、ボスモンスターが討伐されるまで最低でもあと三日はかかると推定されていた。残る階層は26。そしてそこにはどんな冒険が待っているのだろうか。どんな悲劇が待っているのだろうか……。
表示された簡易マップは、もうすぐダンジョン最奥部……あの広場に出ることを示していた。そして、索敵スキルと連動したそれには、緑の光点が一つ、ポツンと表示されていた。
「―――!!」
シェリーナは走り出した。敏捷値に優れているシェリーナの肉体は、現実世界のそれとは比べ物にならない超人的なスピードで道を駆け抜け、広場に出た。そこに立っていたのは、あの魔導服のプレイヤー。
「あなたは……」
「おや……やはり、いらっしゃったのですか。来ないはずはないと思っていました。気配もしましたしね。」
微笑の気配。《魔法使い》がフードを脱ぐ。そこにあったのは、予想通りの笑みを浮かべた、少女めいた少年の顔。年のころはシェリーナと同じか、少し上か。灰色の男にしては少し長めの髪に、赤銅色の瞳。そしてその眼は、言葉と同じ様に年齢に似合わない深い光を湛えていた。
「あの、先ほどは、助けていただいてありがとうございました。あなたが来て下さらなければ、私は……死んでいました」
「いえいえ」
彼は喜びを湛えた声で言った。
「先ほど一度会いましたが、きちんと対面するのは初めてなので、『はじめまして』と言わせていただきます」
にっこりと笑うと、演劇めいた仕草で彼は腰を折って、礼をした。
「私の名は《ドレイク》――――この世界唯一の、《魔法使い》です」
「《魔法使い》……」
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