焦がれる夏
弐拾壱 旋風
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野高校のエースだ。
監督は、まだ若く、二十代後半くらいである。やや面長で品の良い顔つきをしているこの監督は時田四郎。若くしてOB会の期待を背負い監督に就任した俊英で、自身も武蔵野野球部OBである。
「明日の相手は投手が良い。またタフな試合になるだろうが、耐えて粘ってはウチの十八番だ。受け継がれてきた武蔵野の野球だ。お前らと、今年から大会に出てきたチームじゃ年季が違うんだ。必ず勝てる。勝つぞ。」
「「「ハイ!!」」」
時田の言葉に、選手は力強く頷いた。
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「監督、エラく気合い入ってたなぁ」
レガースを磨きながら、円陣での時田の様子を笑うのは、小暮とバッテリーを組む捕手の梅本だ。同じ三年生と談笑している。
「あの人の母校愛スゲェからな。新しく出来たような学校相手には、期するモンがあるんだろ。」
「まぁな。でも、ここまで防御率0点台の碇に打率6割近い剣崎、エースと4番の質ではネルフの方が明らか上だわ」
梅本の言葉に、部室の隅でストレッチしていた小暮の目つきがキッと鋭くなる。その視線に気づいた梅本は、わざとらしくおどけた。
「おお、怖い怖い。ウチのエース様は短気ですなあ。触らぬ小暮に祟りなし、か」
カチンときた小暮は、梅本に手元にあった布巾を投げつける。梅本はそれを難なくキャッチした。
「例え相手の方が上でも、勝ちゃあ良いんだ」
「そうムキになるなって小暮。分かってるってそのくらい。そもそも俺たち、個人の力でここまで来たんじゃないし。」
梅本は小暮が投げつけてきた布巾を使って、口笛を吹きながらミットを拭き始める。小暮は呆れた顔をして、部室から出て行った。
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「お守り?」
「ええ。外の袋は、私が縫ったわ」
学校からの帰りのモノレールの中で、真司は玲からお守りを手渡された。イチジクの葉のロゴと、必勝の文字が刺繍された袋に入っている。
手の込んだモノだった。
「……準決勝に来てお守りかぁ」
「ごめんなさい。遅くなってしまって……」
視線を落とす玲に、真司は笑いかけた。
「いや、これであと二つ頑張れるよ。ありがとう。」
カバンを開け、自分のグラブ袋に括り付けた。
玲は少し安心したような顔になる。
「……最後まで」
「ん?」
ボソッと言った玲の言葉を、真司は聞き返した。
「最後まで、自分らしく、ね」
「あっ……うん」
真司は深く頷いた。
自分らしさ。
勝ち上がって、周りはどんどん盛り上がっていくし、相手も変わっていくけど、自分を変えずに。
野球をしているのは自分であって、野球の為に自分がある
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