焦がれる夏
弐拾壱 旋風
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ゃまた、是礼以外は意外なメンツが揃ったなぁ」
「是礼はAシードだけど、川越成章と武蔵野はDシードだし、ウチはノーシードだもんね」
健介の呟きに相手しながら、敬太は体にシーブリーズを塗りたくっている。
汗臭いままでモノレールに乗るのは耐えられないらしい。この部室が綺麗な状態を保っているのも、敬太が毎朝掃除しているからであった。
「で、健介。武蔵野はどういうチームなんだ?」
多摩が仕上げの素振りを終えた格好で、部室に入ってくるなり尋ねる。初戦こそきりきり舞いだったが、それ以降は渋い活躍。活発な打線を底上げしている。
「まぁ、本当に公立校の野球ですよ。守備でリズムを作って〜っていう、典型的な。」
「夏のベスト4は16年ぶりらしいですよ。僕のおじいちゃんがOBですけど、凄く喜んでました。」
敬太が重ねて言うと、健介は渋い顔をした。
「そこなんだよなァ。伝統校で公立進学校で、高校野球で一番人気が出るタイプの学校なんだよなァ。OBも沢山来るだろうし、こりゃアウェイ間違いなしだよ。」
多摩はそれを聞くと、少し気後れした。
これまで、基本的には観客を味方につけてきた事は自覚していた。しかし、明日は違う。雰囲気に乗せられて、力以上のモノを発揮してきた自分達が、明日、逆風の中でどうなるか。
開いていた窓から、吹奏楽部が演奏する「桜カラー」が聞こえてくる。この曲は多摩が打席に立った時に演奏される曲である。
(そうだ。例え観客が相手についても、俺たちの応援席は俺たちの味方だからな。)
その音色を聞いて、多摩は少し安心する。
戦うのは自分達だけではない。
それだけで、何か安心できた。
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80人を越える部員が、ホームベース付近に並び、センター後方の古びたエキゾチックな校舎に向かって体を反らせて歌う。
「「「ここ武蔵野の御園生に
集える我らは はらからぞ
歴史に花の香をとめて
清き理想に勉めかし」」」
「軍艦マーチ」と同じ旋律の校歌を、練習終わりに斉唱するのは、創部100年を超えた野球部に伝わる伝統である。
古びたバックネットの後ろに作ってある観客席には、OBや地域の方の姿も見え、彼らも立ち上がって同じように歌う。
学校創立から120年。校訓は文武両道。
県立武蔵野高校。ネルフ学園の準決勝の相手である。
ーーーーーーーーーーーーーー
「小暮、明日の先発も任せたぞ」
「はい、頑張ります!」
練習後ミーティングの円陣の中で、いかにも気の強そうな顔をした、小柄な少年がピシッと返事をした。
彼の名前は小暮涼太。伝統の背番号1を受け継ぐ、武蔵
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