暁 〜小説投稿サイト〜
誰が為に球は飛ぶ
焦がれる夏
弐拾壱 旋風
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かれたスポーツ新聞の一つを手にとった。見出しは「夏の甲子園埼玉大会、4強出揃う」だった。美里の目は、その紙面上に「夏の大会初出場で4強 吹き荒れるイチジク旋風」という題の小さなコラムを見つけた。ネルフ学園野球部を取り上げたものだ。主に野球部を創った日向のエピソードが語られている。

この夏の埼玉大会は、ネルフ学園が八潮第一に勝ったのを皮切りに、上位シード校が次々と敗退する波乱が続く大会となった。こういう大会全体の流れは、案外波及していくものだ。勝つ方が勇気を貰ったのか、負ける方が既視感に苛まれて自滅するのか、それは定かでは無いが。

その波乱続きの流れを作り出した張本人のネルフ学園は、その流れの恩恵を最も享受していた。そもそも、ネルフ学園が入ったブロック自体、八潮第一以外のシード校が弱く、「八潮第一の一人勝ちのブロック」と言われていたくらいである。なおかつその弱いシード校も早期敗退で消えていったりするので、初戦以降勢いに乗ったネルフはスイスイと4強まで勝ち上がったのである。

大会終盤に来て心配される投手の体力面も、真司と藤次が交互に先発する事で、疲労は最小限に抑えられていた。この大会、真司はさる事ながら、藤次の好投も目立つ。昨秋に15点取られた投手の面影が感じられないくらいだった。
そして何より、ネルフ学園には切り札がある。

酸素カプセルの無償供与。第三新東京市にあるスポーツ企業の研究室が、最新の酸素カプセルを提供してくれたのだ。ネルフ学園の快進撃が、学術新都・第三新東京市のアピールに繋がるという事もあるらしい。

子どものやる、たかが野球が、学校にとどまらず街をも巻き込んでいく。この状況に、美里はただ驚くばかりである。


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夏休みに入って、朝から晩まで練習できるようになった。といっても、大会期間中で、その大会も終盤ともなれば、体力に気を遣って軽い調整しかしない。


「真司君、肩や肘は大丈夫かい?」
「うん、それは大丈夫だよ。あの酸素カプセルも相当効いたし、体は軽いよ。」


ブルペンで軽い投球練習を終えたバッテリーに、グランドの外からカメラのレンズが向く。
ベスト8に入った頃から、グランドに記者の姿がチラホラ見えるようになった。
そして、学校の中での立ち位置も変わった。
校内ですれ違う、友達でもない生徒にも激励の言葉をかけられる事が増え、練習を覗いている生徒の姿も見えるようになった。
応援団の人数も増え続けているらしい。
新しく伝統も無い学校に通う生徒は、学校として一つにまとまる経験を欲していたのだろうか。


無駄に立派な部室の中では、健介が着替えの途中、半裸のままでスポーツ新聞をめくっていた。


「是礼に、川越成章に、武蔵野にウチか。こり
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