第四章
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れは無理なの」
やっぱりこう言う。首を縦に振ろうとはしない。
「もうこれ以上は。自分に嘘はつけないし合わないし」
「どうしてもか」
「貴方は貴方の夢を目指せばいいわ」
それは認めてくれた。けれど一緒には行けないと。それは変わらなかった。そのことがあまりにも残酷に俺の心に突き刺さって抜けなかった。
「けれど。そこには一緒に行けないから」
「そうか」
「ええ」
また頷いてきた。
「さようなら。だから」
「わかったよ」
俺もそれを認めるしかなくなっていた。遂に頷いた。
「それじゃあな。さようならだな」
「さようなら」
泣いていた。俺は泣いてはいなかったがどうしてもやりきれない気持ちだった。
「これで」
「あの橋あるよな」
俺は後ろを振り向いてそこにあるベイブリッジを指差した。この向こうに俺が建てた家がある。アメリカンドリームの俺なりの証が。
「あの橋を渡りたかったんだ、ずっと」
「そうだったわね」
悲しい顔で頷いてきた。
「けれど。一人で」
「ああ。行って来るな」
俺は悲しい微笑みで応えた。応えても何もならないのはわかっていた。もう終わったからだ。終わったがまだ残念な気持ちが残っていた。どうしようもないのがわかっていても。
「じゃあな」
「ええ」
橋を一人で渡るとそこには何もなかった。今の俺にはそう思えた。ついさっきまであんなに欲しかった、手に入れたかったものが今じゃ本当に何もないように思えた。こんな、砂みたいに空虚なものを俺は欲しかったのかとかえって思えた位だ。
「幸せがこんなに難しいものだったのかよ」
壁に俺のポスターがあった。楽しそうに笑っていた。それを見ているだけで嫌になった。無意識のうちに剥ぎ取って粉雪で濡れる床の上に投げ捨ててブーツで破いてやった。そうせずにはいられなかった。
俺の曲が響く。ロックンロールの新曲だ。ピアノの曲がやけに奇麗だ。けれどそれを聴いているとかえっていたたまれなくなってしまう。
「切ない音色だぜ、全くよ」
俺は一人そう呟いてその豪邸とやらに向かって歩く。アメリカンドリームって奴がこんなに虚しいものだったのなら。欲しくはなかった。けれどそれを手放したくはなかった。あのレストアしたバイクも。全てあいつとの絆だったからだ。それでどうして手放せるのか。俺とあいつの僅かに残った絆がその虚しい夢だった。それならずっと握っていてやる、今決意した。その為に大切なものを失ったのなら。それとずっと付き合ってやるつもりだった。
OH!ポップスター 完
2007・4・14
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