第二章
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第二章
ライブの仕事が縁で大手の事務所から声が入ってきた。そうしてそれからはとんとん拍子で話が進んで気付いた時にはCDまで出ることになった。
「デビューってことよね」
「そうさ」
屋根裏の部屋で彼女に話す。俺はもう完全に有頂天になっていた。
「メジャーだよ、凄いだよ」
「何か急に凄いことになってない?」
「なってるよ」
俺は笑って言葉を返した。
「もうこの屋根裏の部屋だっておさらばだしな」
「売れるの?そんなに」
「売れるさ」
俺は自信満々で答えた。今はビールをあおっていた。少なくとも酒が楽に買える程には贅沢にはなっていた。だがそれ以上に豊かになっていた。
「絶対にな。ポスターだってできてるんだぜ」
「ポスター!?」
「そうさ、これ」
俺のそのポスターを見せた。事務所が躍起に売り出しに乗ってくれたからだ。今まで着たことのないような派手な服を着て映っていた。
「どうだよ、これ」
「別人みたい」
「ああ、これからの俺の姿だよ」
また自信に満ちた声で返した。
「これからのな」
「おめでとう。とにかくこれからね」
「ああ、これからだ」
その言葉に頷く。そうなるとばかり思っていた。
「どんどん売れていくぜ、大金持ちだ」
「そう。やっぱりお金なのね」
「当たり前だろ、それがアメリカン=ドリームだろ」
こう言ってやった。彼女がほんの少しだけ寂しげな顔になったことに気付かなかった。俺はアメリカン=ドリームも幸せも全部金だとばかり思っていた。この時だってそうだった。金があれば何だってできるというのはデビュー前からずっと変わってはいなかった。
「だからさ」
「それで大金持ちになったらどうするの?」
「もっと金を集めるだけだよ」
俺は何も考えずに言った。
「もっとな」
「もっとなのね」
「ああ、豪邸建てていい車買ってな」84
貧相な夢だ。けれどこの時は見果てぬ夢だった。
「投資でもしてもっと大金持ちになるんだよ」
「そう、ずっと」
「ああ、ずっとさ」
また言った。この時も考えてはいなかった。
「そうしてな」
「他のことはいいのね」
「全然」
笑ってビールを口に含んだ。そこで窓から夜空が見えた。雲一つなく星が嫌になる位見える。高い屋根裏にあるから余計に見える。
「こんな狭い部屋ともおさらばだぜ」
「私ね、この部屋何か気に入ってきたけれど」
「おいおい、嘘だろ」
その言葉に思いきり笑った。
「こんなぼろい部屋がかよ」
「私最近思うのよ」
彼女はここで俯いてきた。俯いて俺に言ってきた。
「このままでいいのかもって」
「欲がないな、何か」
その言葉に思わず笑って返した。
「こんなところでいいなんてな」
「変かしら」
「変だよ、変」
ビー
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