第二章
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ルの勢いもあって言い返した。自分でかなり気が乗っているのがわかった。
「今のままでいい筈ないだろ。もっと金が欲しいんだよ」
「もっともっとで何処までも」
「ああ。何処までもな」
「それが貴方の望みで」
「御前だって一緒に大金持ちになれるんだぜ」
彼女を好きだったのは本当だった。しかしそれよりもやっぱり金の方が欲しかったのは事実だ。何処までも金だった。俺は金ばかり考えてデビューして売れた。そう、売れた。
売れっ子になってアルバムもヒットしてコンサートにテレビに大忙しになった。ギャラはどんどんあがり俺は望み通り大金持ちになった。屋根裏はとっくの昔に引き払って豪勢なアパートに引っ越していた。摩天楼のど真ん中にあるアパートにだ。俺は完全に有頂天だった。
「まだだよ」
そのアパートで楽しく高級のワインをあおりながら一緒にいる彼女に言う。どういうわけか浮かない顔をしていたがその理由は見なかった。
「まだまだ売れて金を手に入れるぜ」
「もう充分じゃなくて?」
「何言ってんだよ」
その問いに馬鹿にしたように返して言ってやった。
「まだ豪邸も車もないだろ。まだまだなんだよ」
「けれど売れてアメリカ中に名前知られて」
「馬鹿だな、そんなのは途中なんだよ」
俺は確かにポップスターになった。けれどそんなことで満足してはいなかった。まだまだ一杯の金が欲しかったからだ。夢を掴んでいないと思っていた。
「まだまだな」
「そう、ずっとお金なのね」
「当然だろ?」
俺は何を今更といった感じで言い返した。
「それでどうしてなんだよ」
「そうよね。それじゃあ」
「ああ、もっと売れてやるさ。そして」
「売れるのもいいけれど」
彼女はここで寂しい顔になった。今までよりもっと。
「どうしたんだ?」
「落ち着かない?」
そしてこう言ってきた。
「少し。それで二人でさ、もっと一緒の時間とか」
「もっと金が入ったらな」
俺は何も考えずにそう答えた。
「考えるさ。少なくとも今じゃないな」
「今じゃなくても。落ち着いてもいいんじゃないかしら」
いつもはこんなことは言わなかったのに今日は特別だった。そのことがやけに心に残った。
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