第一章
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曲?」
「曲は幾らでも考えつくんでね」
顔を見上げて彼女に応えた。春の眩しい日差しの中で。
俺はベンチの上に座っていた。その横に彼女が来たのだ。俺を見下ろすようにしてあのくすりとした笑みで声をかけてきたのだ。やっぱりジーンズが似合っていた。
「それでそれを歌ってるってわけさ」
「今何曲持ってるの?」
「百曲はあるな」
俺は平然としてそう答えた。
「多いだろ」
「数はね」
憎まれ口めいたことを述べてきた。
「他はどうかしら」
「この曲聴いて何も思わないんだったらあんたセンスないぜ」
俺は笑ってこう言ってやった。
「いい曲だろうが」
「まあね」
笑ったまま俺に頷いてきた。
「この前の曲もよかったけれど」
「あれはそこそこ有名なんだよ」
「へえ」
俺のこの言葉に楽しそうに笑ってきた。実際に俺との言葉のやり取りを楽しんでいる感じであった。
「そうなんだ」
「そうさ、それでな」
俺はさらに言葉を続けて述べた。
「この曲もそうなんだよ」
「今の曲ね」
「悪くないだろ?」
あえてサビをギターで聴かせてみた。
「この曲もな」
「少なくともファンは作れるわね」
「どうも。それでそのファンは何処かな」
「ここに一人ね」
つまり自分自身だと。こう言ってきたのだ。にこりとした笑みに変えて俺の顔を見下ろしながら。実際に楽しむ顔で俺の顔を覗き込んでいた。
「いるわよ」
「惚れたってわけか」
「ええ。よかったらさ」
俺の横に腰掛けてきた。そのうえでまた言ってきた。
「もっと聴かせてくれないかしら」
「チップは弾んでくれるんだろうな」
「あら、シビアね」
「結局コインが全てなんだよ」
俺はそうした信条だった。売れなければ話にならないと思っていた。アメリカン=ドリームってやつは大金持ちになることだとばかり思っていた。今思うと俺は本当に馬鹿だった。
「全部な」
「そうかしら」
彼女はくすりと笑って俺に言葉を返してきた。俺もそれを受ける。
「そうだったら随分簡単だと思うけれど」
「簡単なんだよ」
何もわからないまま言った。
「世の中っていうのはな」
「それを確かめる為に音楽やってるの?」
「いや」
その問いには首を横に振った。音楽への気持ちは本物だった。
「音楽は好きさ。それは本当のことさ」
「そうなの」
「ああ、じゃあ聴くかい?」
また声をかけてみた。彼女を見ながら。
「俺の曲を」
「そうね。最後まで全部の曲聴きたいわ」
「そりゃどうも。じゃあ何度でも難局でも聴きな」
「ええ」
こうして二人の付き合いがはじまった。俺達はすぐに一緒に暮らすようになって彼女にも何度も何曲も聴かせた。楽しい時間を過ごしていた。
そんなある日だ。俺はまた仕事が入
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