焦がれる夏
弐拾 心は硝子か濁流か
[4/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
イミングが合っていた。
僅かにボールの下を叩いただけ。
御園の全力の真っ直ぐに対応したのは、これが初めて。
(待てよ……全力投球でも当てられるくらい、俺の球走らなくなってんのか……)
また、自分の球への疑いが御園の中に首をもたげる。藤次は三度、気迫満々に吠えている。心臓の鼓動がいやによく聞こえた。予感がする。このままでは、打たれる。
(待て……落ち着け。ここで真っ直ぐを投げなくちゃいけねぇルールはねぇ)
セットポジションに入り、御園は大きく深呼吸した。捕手のサインに首を振り、選んだ球種は縣河のカーブ。
(真っ直ぐに合ってきたとしても……こいつはどうだ!)
腕を振って投げ込まれる御園のカーブは、投げた瞬間フッと上に浮き、そこからストンと落下する。やみくもにバットを振る藤次。その軌道は、カーブの放物線を捉えはしなかった。
「よっしゃァー!!」
その瞬間、御園は雄叫びを上げた。
しかし、信じられない事が起こった。
球場を大歓声が満たした。
ボールはバックネットに達していた。
捕手の馬場が拾いに行くが、三塁ランナーの日向は悠々ホームインし、次打者の薫と強く抱き合う。
三振は三振。
だが、捕手が大きく曲がってバウンドした御園のカーブを捕球できなかった。
ワイルドピッチ。
ここに来て出たミスで、試合は振り出しに戻った。
「「「抱き締めた命の形
その夢に目覚めた時
誰よりも光を放つ
少年よ神話になれ!!」」」
エンジ色に染まったネルフ学園応援席が学園歌に揺れる。ベンチでは、光がスコアもつけられないくらいに号泣している。加持の目も真っ赤だ。多摩と日向が三年生同士ガッチリと抱き合い、下級生が日向に群がってハイタッチを求める。
「すまん御園……」
「い、いや……俺も悪い」
マウンド上に八潮第一の内野陣が集まる。捕手の馬場の顔は真っ青。御園が馬場に見せる笑顔も引きつり、声も乾いていた。吾妻は言葉も出ない。
グランド上の全員が、球場の雰囲気に当てられていた。タイムを取っている間も、球場は揺れ続ける。
(あのファウルは、まぐれだよ。たまたまさ。もう一球真っ直ぐだったら、文句なしに三振だろうに。)
打席に入る6番打者の薫は、日焼けを知らない真っ白な顔にニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。
(結局、自分を信じられないからこんな結果になったのさ。御園の球種は真っ直ぐ、スライダー、カーブの三つだけ。それだけでここまでの野球人生やってきたという事は、特に真っ直ぐとカーブに自信があったからだろう。それだけ自信がある球への信頼も揺らいでしまうんだ……)
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ