焦がれる夏
弐拾 心は硝子か濁流か
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日向の言葉に全員が大きな声で頷いた。
そして円陣に背を向け打席に向かう日向に、声援を送る。
「日向ァ!絶対出ろよォ!」
「日向さんいったって下さいよォ!」
「キャプテン意地見せろ!」
「日向ァ!自分のスイングだぞ!自信持ってやれ!」
それまで隅に座っていた加持が、最前列に身を乗り出して大声を出す。日向はその声に振り返り、大きく頷いた。
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(……暑い。何でだ?)
マウンドに上がった御園は、しきりに汗を拭い、首を傾げる。終盤にきて、制球も乱れてきた。四球は八回に一つ出しただけだが、自分自身がその乱れに1番よく気づく。
初回からスクランブル登板し、奮わない打線を鼓舞するかのように全力投球を続けてきた。ビハインドの場面で力を抜いて投げる余裕も無かった。
加えて、前日まで追い込み練習で疲弊した体。
多少球の質が落ちようが、ネルフ学園打線から三つアウトをとるくらいは簡単だ。しかし何よりの問題は、球の質の落ちそのものではなく、御園本人が自分の球に疑いを持ってしまう事だった。
その疑いは、傷口をどんどん広げてしまう。
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日向はカーブを二球見送り、そのカーブが二球とも外れてカウントは2-0となる。
(やはり、御園の制球はおかしいぞ?)
日向は確信を持った。そして、迷いが生じる。
四球狙いで、球を見ていくか?
それとも、次のカウントをとる球を狙うか?
日向は、自分の握るバットを、ジッと見た。
(……見ていって、それで一体どうすんだよ……)
日向は腹を括ってバットを構える。
御園の投げる球は、ストライクゾーンに飛び込んでくる真っ直ぐ。
もう140キロ半ばの球速は無い。
速いが、見えない程ではない。
踏み込んで、球に負けずにフルスイング。
打球は確かな手応えと快音を残して、右中間に飛んでいった。
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センターの奥山は久々に飛んできた鋭いライナーに、虚を突かれる。右中間に向かって打球を追う。右打者の打球は、ライトの方向へとスライスしていく。走っても走っても打球が逃げていく。
そして足が動かない。
(くそっ)
奥山は横っ飛びし、身を投げ出してグラブを伸ばす。そのグラブの先を白球はすり抜けていった。
球場に、大歓声が満ちた。
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無我夢中で日向は走る。
一塁蹴って、二塁も蹴る。
何も聞こえなかった。
体が軽い。風になったみたいだった。
ボールは返ってこない。
三塁ベースに滑り込み、右手を振り上げて、獣のように、腹の底から吠えた。
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ネルフの応援席だけでは
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