A's編
第三十一話 裏 前 (グレアム、クロノ)
[9/11]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
「なっ!?」
その一言はクロノにとっても衝撃だった。
グレアムは、時空管理局の英雄とみなされており、また時空管理局の穏健派の重鎮の一人でもある。その彼が退任するということは、時空管理局に大きな影響を与えることは間違いない。内部的にも外部的にもだ。
ギル・グレアムという名前は過去の業績と相まって、この年齢になってもどこかで抑止力となっていた。つまり、背後にはグレアムが控えているという大きな抑止力だ。だからこそ、時空管理局内部には大きな影響力を持っているし、穏健派の重鎮として君臨できたのだ。
その彼が退任するということは並大抵のことではない。利害関係や内部組織への影響力を考えると、やめます、と言って簡単にやめられるものではないだろう。引き継ぎに一年近く、それから後始末と合わせると三年は準備が必要だ。すぐにやめられるタイミングがあるとすれば、本当に彼が急死した時だけだろう。
「何を考えているのですか!?」
「クロノ―――この作戦の欠陥は先ほどの一つだけではないのだよ」
そう言いながら、グレアムは懐からカードを取出した。そのカードはクロノにも見覚えがある。彼が今、持っているデュランダルにそっくりだ。
もともと、デュランダルは今回の作戦の要だ。デュランダルが持つ強力な氷結魔法で永久凍結する。それが作戦の最終項目なのだから。だから、デュランダルに闇の書が封印できるほどの出力が出せるのか? というのが懐疑的な目で見られていた。だからこそ、クロノが先に試作品を使って、改良点を研究させていたのだから。
その問題は目途がたった、と定例報告で報告されていたはずだった。
「確かにデュランダルのリミットを外して魔力を最大限つぎ込めば、闇の書の永久凍結は可能だ」
それは11年前の闇の書事件で観測した暴走間際―――魔力が臨界に達し、一度落ちる瞬間だ―――の魔力から判断したので、ほぼ間違いないとのことである。
それでも、クロノはグレアムの一言が聞き逃せなかった。
「リミットを外す?」
通常、デバイスには自らのリンカーコアの限界を超えて行使しないようにリミッターが付けられている。それを外すとグレアムは言ったのだ。だからこそ、クロノはグレアムが退任するという理由に思いついた。
「まさか………」
思い至ったクロノに共感したのかリーゼアリアとリーゼロッテも沈痛な面持ちで顔を伏せる。
「そうだ。私のリンカーコアの限界を振り絞ってようやく、と言ったところだ。老兵の花道としては、いささか後味の悪いものだがね」
リンカーコアの限界を振り絞ると、何らかの後遺症が残ることは間違いない。一般的には出力の低下があげられる。それが、若いころの肉体ならまだ回復する余地は見込めるだろう
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ