A's編
第三十一話 裏 前 (グレアム、クロノ)
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いた部下、リーゼアリアとリーゼロッテとも仲は友人のように良好だったと聞く。しかも、クライドを犠牲にしたのは、闇の書を護送中の出来事。たられば、を考えても仕方ないが、彼女たちの中では多大な後悔も積み重なっているだろう。
つまり、両者はまったく逆のベクトルの正義を持っている。
クライドが犠牲になっておさめた闇の書事件だからこそ、今度は誰も犠牲を出したくない―――クロノ。
クライドの敵討ちとこれ以上の犠牲を出さないためにも何が何でも闇の書を封印したい―――グレアム、リーゼアリア、リーゼロッテ。
すべては十年前から起因している両者の対立ではあった。
「確かに、多少の私怨が入っていることも認めよう。だが、それ以上、時空管理局の提督としても闇の書をこれ以上放置はしていられない。たとえ、今回の処置が一時的なものだとしても、闇の書を抑えている事実は大きい」
「………気付いていたんですか?」
「当然だ」
クロノが言いたいのは、今回の封印処置が一時的なものにしかならないだろうということだ。
闇の書という強大な力。それが目の前にあって、手を出さない人間がいるだろうか。いつか、どこか、闇の書という存在を忘れたころにきっと誰かが封印を解く。力にあこがれるものが、手に余る力だとわかっているのに手を出さずにはいられない人間というのがこの世にはいるのだ。
だから、永久凍結といっても一時的なものにしかならないだろう、とクロノは考えていたのだ。そして、それを対抗策ができた時の言い分にするつもりではあった。
「だからこそ、クロノ、今回は傍観者でいてほしい。そして、今回の作戦のあと、彼女を護ってほしい。そして、いつか彼女を解放してくれ……」
しみじみと語るグレアムに思わずクロノはかっ、と血が上った。いつも冷静を心がけているクロノが珍しくである。だが、無理もないことである。グレアムの言い方はあまりにも自分勝手すぎたから。
自らの作戦で一人の少女を犠牲にしながら―――しかも、それが対症療法に過ぎないことを知っている―――その後始末をすべて自分に丸投げしようというのだから。
自分が尊敬した提督の姿はそこにはないように思えた。
「それは……それは、提督自らがすることです」
かっ、となった頭を何とかなだめながらクロノは口にする。
最後まで責任をとれ、とクロノは言いたかった。言わずともその言葉はグレアムに伝わったようだ。わずかに動いた眉がそれを示していた。
「できることなら最後まで見届けたかった。いや、見届けるべきだった」
ふぅ、とため息でも吐きそうな口調で言うグレアムの表情の向こう側に見えたのは諦観の情だった。
「クロノ……私は、この作戦が終わったら退任する」
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