焦がれる夏
拾捌 球は魂
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。
しかし
やはり、自分の晴れ姿を見て欲しかった。
大会で活躍し、チームメイトや指導者から褒められても、家に帰って言われる「凄かったらしいじゃないか」の一言に勝るものはなかった。
でも、「らしい」では物足りない。
両親のその目に、自分の"野球"というものを直接焼き付けたかった。
中学卒業直後、所属していたシニアの卒業試合に、両親が来てくれる事になった。
真司は、しょうもないOB戦だというのにキッチリ調整して、万全のコンディションに仕上げていた。
しかし、その試合を観戦に訪れるその道中で。
真司の両親は交通事故に遭って亡くなった。
真司は野球を辞めた。
自分の"野球"を見せたい人が、居なくなった。
両親の死と同時に野球する気が無くなった自分自身に対しても、「両親は褒められたいから野球をやってただけじゃないか?」という疑いが生じ、とても続ける気が起こらなかった。
「悲しみをバネにすべきだ」と聞くと、虫酸が走った。人の死は利用する為のものではない。
自分に今、"野球"を見せたい人は居るだろうか?
真司は自問する。
野球を見せたい人。自分自身を、このスポーツを通じて表現したい人。
真司にとってのその人は、今は自軍の応援席に居る。青い髪、赤い目。日焼けを知らないような、真っ白な肌。静かで、不器用な語り口。
綾波玲。
しっかり、見ててよ。
真司は、心の中で呟く。
ああ、何で自分が野球をしてるかが、わかった気がする。
この球技は、既に僕の一部だ。好きとか嫌いとかじゃない。この球技が、自分自身なんだ。
「カァーーーン!」
甲高い金属音が、響いた。
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