焦がれる夏
拾捌 球は魂
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ースギリギリに来た球を、思い切り引っ張りにかかる。が、ボールは手元で小さくストン、と落ちた。
(何ッ!?)
バットが空を切り、御園は体勢を崩してよろけた。空振りの三振。マウンド上の真司が小さくガッツポーズを作り、捕手の薫が勢い良く内野へボールを回す。
(…真っ直ぐと変わらん軌道、速さから落ちたぞ。まさか、スプリッターか?)
スプリッターは、浅くボールを挟んで投げる、変化が小さく速いフォーク。御園は長い野球人生で、その軌道を初めてお目にかかった。
(…球そのものの威力というより、一つとして制球を間違えた球が無かった…)
御園は真司を睨みながら、自軍ベンチへと帰っていく。
(間違いない。このピッチャーは手強い。)
侮れない、という御園の中での真司の評価は、打席を経て「手強い」にまで変わった。
「だっせー三振だったなお前ww」
相変わらずの態度の吾妻には、閉口するしか無かった。
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初回以降、試合は真司と御園の緊迫した投げ合いとなる。重苦しい雰囲気を振り払おうとするかのように御園は豪快にその左腕を振り、ネルフ学園打線をバッタバッタと三振に斬って捨てる。その気迫たるや凄まじく、4回に剣崎がヒットを打った以外は1人のランナーも出ない。6回には唯一ヒットを許した剣崎に対しても140キロ中盤を三つ続けて三振に討ち取り、キッチリお返しを果たした。
しかし、それ以上に際立つのは真司の投球だった。内外、高低のストライクゾーンを縦横無尽に駆使するコーナーワークに対して、追い込み練習の影響で振りが鈍い八潮第一打線が凡打の山を築く。真理と加持のノックで鍛え上げられた守備陣も、全く崩れない。
「お、大谷さん、一体誰がこのような展開を予想したでしょうか?六回を終えて、ネルフ学園・碇、まだ1人のランナーも許しておりません…」
「ええ、素晴らしい。本当に素晴らしいピッチングです。」
テレビ中継の実況席も、予想外の展開に大いに驚き、また新設校のエースの奮闘に目を見張る。
球場の雰囲気がだんだんと変わってきた。
ネルフ学園がアウトを一つとる度、大きな拍手が起こる。試合前は八潮第一がどれだけの力を見せつけるのかにだけ焦点が当たっていたが、徐々に観客が健闘を見せる新設校に感情移入し始め、声援を送り始める。
自身の力を存分に発揮し、躍動する真司の胸中には、ネルフ学園入学前の出来事が去来していた。
ーーーーーーーーーーーーー
真司の姓が碇でなく、六分儀だった頃。
共働きの両親は仕事に忙しく、真司の野球の試合を両親が見に来てくれた事は無かった。
真司は両親の自分への愛情を分かっていた。
試合に自分の親だけが来ない事を、愛情の欠如とは受け取らなかった
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