焦がれる夏
拾漆 口火
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八潮第一の先発投手は、2年生の佐々木。
中背の右投手で、オーソドックスな投球フォームである。
その初球は、高めに大きく外れた。
いくら強豪私学の選手と言えども、先輩の最後の夏のマウンドを託されている事に緊張しているようだ。表情も心なしか固い。
(…何だ。本当に大したことないぜ)
一方一年生で夏の舞台に立っている青葉には緊張は皆無だった。青葉にとっても初めての夏の大会だが、そもそもネルフ学園の野球部にとっても初めての夏の大会なのだ。チーム全体に、開き直りがあった。
(せっかくこの夏用に、自慢のロン毛もバッサリ短くしたんだァ…)
事実、ヘルメットからだらしなくはみ出ていた青葉の髪は今はもうない。それでも、全員五厘刈りの八潮第一に比べれば相当の長髪だが。
(出し惜しみせずイイトコ見せてやらぁ!)
佐々木の二球目。ストライクを取りにきた球を迷わず叩く。
「キーン!」
流し打ったライナーが、三遊間のど真ん中を切り裂いていった。
ーーーーーーーーーーー
「おっしゃー!」
「初ヒットー!」
湧き上がるネルフ学園サイド。
日向がネクストに向かいながら、いつも通りサインを送る。
(夏本番で浮かれたバッティングするかと思ったけど、いつも通り低い打球を打った。偉いぞ、青葉。)
日向は怖いもの無しの一年生の意外な冷静さに感心した。そして打席に入る二番の健介に視線をやる。
(俺たちがヤシイチ相手に普通の野球してても仕方がない。攻めだ、攻め。)
日向の視線を受ける健介はメガネ越しに、いじらしくポーカーフェイスを作っている佐々木を睨んでスタンス広くスクエアに構える。体勢低く、しぶとさを感じさせる構えだ。
(いきなり仕掛けるかァ。日向さんが一番、舞い上がってんじゃないの?)
青葉がかなり広めにリードをとっているのが右打席の健介からは見える。牽制死が何より心配だった。
しかし、マウンド上の佐々木は牽制を挟む事もなく、健介目がけて投げた。
青葉がスタートを切る。一方で、健介も打ちにいく。
日向のサインは、初球からヒットエンドランだった。
(やべっ)
しかし、佐々木の投球は高めのボール球だった。
何でも打つつもりの健介は懸命に大根切りのようなスイングをするが、そのバットは空を切る。
八潮第一の捕手・馬場が腰を浮かせて捕ったそのままの体勢で二塁へ投げる。
青葉が加速そのままに二塁ベースに滑り込む。
「セーフ!セーフ!」
二塁塁審の手は横に広がった。
青葉は二塁ベース上でガッツポーズし、空振りした健介はランナーが死ななかった事にホッと胸を撫で下ろす。
「おい!何で牽制の一球も投げねえんだ!ランナー1番だろうがこのドアホ!!」
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