焦がれる夏
拾漆 口火
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ッチですよ!」
ライトの藤次が声をかけ、剣崎は右手を挙げてそれに応える。
「チッ、この夏の始まりにでっけえ打ち上げ花火見せてやろうと思ったのに」
苦笑いしながら、吾妻はベンチへと帰る。
「おい、また初球から打ちやがって」
惜しい惜しい、と吾妻を出迎える八潮第一ベンチの中で、一人吾妻に渋い顔を向けていたのは、これまた大柄で、濃い顔つきの少年だった。
「悪いな御園。筋肉痛がなきゃホームランだったよ」
悪びれもしない吾妻に、御園はため息をつく。
これが選抜ベスト4、今年の埼玉ナンバーワン投手と言われ、エースで四番で主将とチームの柱を一人で担う御園公也である。
しかしその御園も、吾妻の自由人ぶりには敵わない。
打席には二番の白柏が入っていた。
ーーーーーーーーーー
(低めのボール気味の球でもあそこまで持っていくなんて、やっぱりナンバーワンと言われるだけのミート力とパワーがあるなあ)
いきなりのセンターライナーに、真司は他人事のように感心していた。
(でも、球の見極めは悪い。隙がない訳じゃない。)
真司は次に打席に入った二番打者に向き合う。
八潮第一の二番セカンドは白柏。
攻撃型一番打者の吾妻の後ろにあって、
典型的二番打者の役割を担う打者だ。
(初球を吾妻が打った後は、必ずボールを見てくる。ここは早めに追い込もう。)
薫の要求通り、真司は外低めの真っ直ぐで簡単に二つストライクをとる。
(まずいな…真っ直ぐで簡単に追い込まれちまった。)
粘って真司の球種を引き出したい白柏は、0-2のカウントに追い込まれて焦る。
そして三球目も、ストライクゾーンギリギリをつく真っ直ぐ。仕方なく手を出すが、手元で微妙に沈んだ。
(なっ…)
ボテボテのゴロがセカンド健介の前に転がる。
健介が難なく処理して、二死となる。
「何簡単に真っ直ぐ三つで打ち取られてんだアホ!遊ばれてるじゃねえか!」
トボトボとベンチに帰ってきた白柏に、監督の怒声が飛ぶ。
「…真っ直ぐ、手元で曲がってるぞ。ムービングだ。」
ベンチに真司の投球を伝える白柏の言葉を聞いて、御園はほう、と感心した。
細身で、癖のないフォームの、特徴のない公立らしいエースかと思いきや、癖球を備えているか。
少しこれは侮れないかもしれない。
「そうかァ?適当に振りゃ当たったけどなァ」
「……」
吾妻の言葉には、閉口するほかなかった。
ーーーーーーーーーーー
「「「ケントーケントケントーケント
ゴーゴーレッツゴー辻先健斗!!」」」
八潮第一のスタンドで、「シャナナ」に合わせてタオルが舞う。ここからは八潮第一のクリーンアップ。まずは3番、2年生の辻先。
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