〜幕間〜 世界の歪みは緩やかに
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か分からない。
その時の料理は、自身で作ったというのに、今まで食べた何よりもおいしかった。
人と食事をする楽しさすら、彼は忘れてしまっていたのだ。
もう彼の心に絶望は無かった。
酒宴も終わり、男は書簡に数々の料理の作り方を書いて渡す。男が『れしぴ』と名づけたそれを高順は今も宝としている。
記された料理の数々はどれも異質で未完成なモノが多い。記憶が曖昧で、しっかりとした材料が分からないモノもあった。
しかし高順の料理に掛ける情熱は誰よりも熱く、大きい。だからこそ全てを再現し、あまつさえ自身で改良さえ行っている。
その日から高級料理飯店『娘々』は劇的に変わることになった。
それは彼の野望が再燃した日だった。
†
時は戻り、現在。
高順は役満姉妹と呼ばれる少女たちの舞台を見に来ていた。
男の残した『れしぴ』に乗っている、絶対に作れないだろうと言われている幾つかのモノを作る技術を知る事が目的である。
『役満姉妹の舞台では冬が来る』
との噂を聞いて。
そんな世迷い事のようなモノは半信半疑だったが事実、冬は来た。
全くと言っていいほど胸に起伏の無い少女が手を上げると、どこからともなく白い煙が舞台前の地を這い、驚くほど冷え込んだのだ。
高順は驚愕に目を見開き、身体が歓喜に震える。
この技術さえ手に入れば私はまた大陸制覇に近づける。
舞台が終わり、出待ちと呼ばれ押し寄せる多数の男から彼女達を守る女性に、その場が落ち着きだした頃に話しかける。
店の名を言うと仰天して目を見開き、固まってしまった。
「どうしてあの店の店主が……」
「ティンと来たんです。彼女達と交渉をお願いしたいのですがよろしいでしょうか?」
「よ、要件は?」
「私の店に小さな冬が欲しい、そう言ってください。教えて下さるなら新作の甘味を出す度に最初にタダで食べる権利を。美容に効く料理も知っておりますのでお力になれるかも、とも」
ただし猫耳軍師だけには最初に食べさせる密約を交わしている、とは言えない。
美容に効く料理は自身がこれまで学び、覚えてきたものだ。
女性は頷いてから楽屋に消えて行き、しばらく待つと先ほどの三人の内眼鏡の少女が現れた。
「追加で条件があります。この街に帰ってきたら打ち上げをあなたの店で、無料で開いてくれるなら構いません」
目の前に立つなりさくっと条件を増やしてきた。
強気な姿勢からはこのような交渉事を多くこなしてきたのが分かる。
「ふふ、歌姫の三人だけならば構いません。ただし人目もあるでしょうから時間指定をさせて頂きます」
高順は間違わない。少女が明確な人数を言わなかったのは上手い、無料でも大喰らいがいれば店にとっては大打撃になるだろう。
二つとも抑えたのは長年店主
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