〜幕間〜 世界の歪みは緩やかに
[3/6]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
もしろい料理を教えるから悔しがるな」
小さく内緒の話を告げ、厨房に向かう。
彼は、先ほどの美女とのやり取りを見ていた高順の本心を見抜いていた。
簡易の料理会が終わり、夜遅くに先程の店を出てから自身の店に白の美女と黒の男を招く。店の看板を見て唖然としていたが中に入り、手ごろな席に二人は座る。
「名ばかりで心の籠っていないくだらない店ですよ」
高順が自嘲気味に一つ言うと男は真剣な顔をして語り始める。
「料理ってのは人の心を救う一番の方法なんだ。腹が減る、飯を食う、幸せになる。おいしい料理ならどれだけでも幸せが大きくなる」
男の放つ言葉に、また一つ高順の心が晴れて行く。
「なに、簡単な事だ。あんたは答えを知ってるだろう? どれだけ腐った客でも心から美味いと言わせる料理を作ればいい。黒い話題なんか出来ないほど夢中にさせればいい」
彼には、道すがらに自身の本心をぽつりぽつりと漏らしていたからこその発言。心を揺さぶられる彼なりの答えは、高順には輝かしくて、しかし踏ん切りがつかない。
「俺は美味いもんが好きだ。店長、あんたの最高の料理を食べさせて俺が納得できたら、誰もが夢中になる料理を教えてやる。大陸に居ただけでは到底知りえない未知の品だ。……料理人なら、作ってみたくはないか?」
傲慢に過ぎるその男の言は高順への挑戦とも取れた。
「ふむ、これは男同士の決闘。ならば私が立ち会い人になってしんぜよう」
美女の言葉に高順の心は轟々と燃え上がり、すっと睨みつけてから立ち上がる。
「いいでしょう。ただし、私の料理があなたの予想を超えていたなら、知っている全てのモノを教えて頂きます」
久方ぶりに闘争心というモノを持った彼は、厨房にてこれまでの全てを結集して芸術とも呼べる一品を作り出した。
コトリ、と男の目の前に置いて反応を確認すると、
「いい匂いだ。食欲をそそられるな。彩りもいい。見ているだけで飽きない」
一つ一つ料理に対して褒めていく。言葉が紡がれる度に高順は心が満たされていった。
黒衣の男はハシで一口分を切り取り、ゆっくりと口に運び、目を瞑って咀嚼、嚥下した。
「うん、おいしい。店長、あんたの料理は最高に美味いな!」
高順を見る笑顔は宝物を見つけた子供のようで、すっと心が晴れ渡るのを感じた。
誰かにそう言って貰いたくて、誰かに認めて貰いたくて作った一品。それは心の籠った確かな料理だった。
「小皿ある?」
ふいに男は小さな皿を求めた。その意図が分からずに何故ですか、と聞き返す。
「皆で食ったらもっと美味いだろ? 店長も一緒に食おう。星がどうせ酒持ってるだろうから酒も飲もう」
ギクリと肩を竦める美女ににやりと笑って言い切り、そこからその場は酒宴となった。
高順はその日どれだけ笑った
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ